デジタルトランスフォーメーション成功の鍵は、エンジニア組織と風土づくりにあり

株式会社ギブリー
取締役
新田 章太氏

デジタルテクノロジーを駆使し、企業経営の在り方やビジネスプロセス、企業風土の再構築を図る、デジタルトランスフォーメーション(DX)。いま、その必要性が盛んに唱えられ、多くの企業で実践されている。そのためにエンジニアを雇用する企業も増えているが、採用や評価、育成は一筋縄ではいかないようだ。カルチャーの変革を伴うDXの推進に躓くケースも少なくない。そこで、DX推進の核となるエンジニア組織のつくり方や注意点、先行事例などについて、エンジニア採用ソリューションを提供している株式会社ギブリー 取締役 兼 trackプロダクトオーナーの新田 章太 氏に話を伺った。

デジタルトランスフォーメーションは、これからの競争戦略のキーポイント

すでにご存じの方も多いと思いますが、改めてデジタルトランスフォーメーション(DX)とは何か、そのご説明からお願いします。

新田氏

そもそもは、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と提唱した概念です。日本で盛んにいわれるようになったのは、2016年にIT調査会社のIDC Japanが「企業が(クラウドやビッグデータ、ソーシャル、モバイルなどの)第3のプラットフォーム技術を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデル、新しい関係を通じて価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」と定義してからと記憶しています。

また、経済産業省が2018年12月に発表した「DX推進ガイドライン」によると、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。

つまり、AIやIoT、機械学習といったテクノロジーが進展していく中、こうしたテクノロジーを活用し、いかに企業経営の在り方やビジネスプロセス、企業風土を再構築していくかというDXが、これからの競争戦略のキーポイントになるということだと思います。

最近、盛んに言われている“働き方改革”はその一環ですね。

新田氏

そうですね。RPA(Robotic Process Automation)により、単純作業など機械にできることは機械にやらせ、人は企画立案などの人にしかできない業務を担当するなどして、生産性を向上させることが、“働き方改革”の根底だと思います。

DXは、そこからさらに一歩進んで、ビジネスモデルや企業カルチャー、さらにはビジネスそのものの変革にまでアプローチするという概念です。例えば、ビジネスモデルにおいては、従来は人の手で行われていたサービスを、SaaS方式のサブスクリプションモデルに変更するといったことが該当します。こうした変更に伴い、ビジネスプロセスや必要となるスキル、さらには評価体系まで刷新していく必要があります。この一連の過程で生産性を向上させ、競争力向上に繋げようという狙いがDXにはあると思います。

“治外法権”として既存の組織や風土から切り離し、理想の組織風土を構築

こうしたDXの推進に躓くケースも少なくないようです。その要因はどういったところにあると見ていますか。

新田氏

よく聞くのは、POC(Proof of Concept=概念検証)で終わってしまうというケース。そこから先、どう進めて行くべきかよくわからないということでしょう。また、DXの突破口となる新規事業を提案したとしても、承認がなかなか下りないというケースもあります。経営層には「IT化」とか「AI」とか「DX」といった言葉だけが伝わって、その意義までなかなか浸透しないことがネックとなっているのではないでしょうか。さらに、新技術や人材の導入ばかり先行させ、環境整備や風土改革を遅行させることで、DXを進めようにも不備な環境に妨げられてしまうという問題もあります。

いきなり社内に新しいシステムやビジネスモデルを導入しようとしても、うまくいかないわけですね。

新田氏

DXを推進するためにエンジニアを採用し、内製化体制をつくるには、事業部門内で小さく始めるとか、別会社をつくって着手するといったやり方もあります。

例えば、富士フイルムホールディングスは、2018年10月に丸の内にエンジニアを集めた「Brain(s)」(ブレインズ)という拠点をつくり、 日本で初めて最先端のAIシステム「NVIDIA DGX-2」を導入して技術開発を加速させています。つまり、既存の組織を変革するのではなく、新しいDX組織を一からつくり、その成果をもとに本体はじめグループ各社に徐々に広めていくという考え方だと思います。いわば「治外法権」「サンドボックス」的に、既存の組織や風土から切り離して理想の組織風土を構築するわけです。同じ社内では、社員の待遇格差や新しい取り組みにハレーションを起こすこともあり、やりづらかったりするようです。また、こうした新会社や組織を立ち上げたら、採用のためのブランディングやPRも忘れてはならないと思います。せっかく作ったのに知られないのでは意味がありませんから。

インタビューはまだまだ続きます。

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新田 章太氏
株式会社ギブリー 取締役

2012年3月に筑波大学理工学群社会工学類経営工学専攻卒業。学生インターンシップ時代に「エンジニア」領域に特化した支援事業を株式会社ギブリーにて立ち上げ、入社。現在は取締役を務める。オンラインプログラミング学習・試験ツール等の自社サービスを立ち上げ、同社のHR tech部門を管掌。また、日本最大規模の学生ハックイベント、JPHACKSの組織委員会幹事を務めるなど、若い世代のイノベーターの発掘・支援にも取り組んでいる。

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