「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」とは、米国スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が20世紀末に提唱したキャリア理論。「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」とし、その予期せぬ偶然の出来事にベストを尽くして対応する経験の積み重ねで、よりよいキャリアが形成されるという考え方です。

対比されるキャリア理論には、自分の適性などを見出した上で、あらかじめ設定したキャリアゴールを目指してキャリアを積んでいく「キャリアアンカー理論」があります。計画された偶発性理論が生まれた背景には、このような、自分のキャリアは自分で意図して職歴を積み上げ、形成するものであるとするそれまでのキャリア理論が時代に合わなくなってきたということがあります。

ビジネス環境の変化が現在ほど激しくなく、10年後の状況がどうなっているかといったことも予想しやすかった時代には、自分の適性や能力、やりたいことなどを分析すれば、目指すべきキャリアゴールや、そこに到達するためにたどるべき道筋が比較的たやすく導き出されました。

しかし、変化のスピードが非常に早く、将来何が起きるかが誰にも見通せない時代になると、キャリアをあらかじめ計画し、その計画通りに進もうとすることは現実的ではありません。キャリアゴールを一つに固定しても、それが将来も素晴らしいゴールであるとは限らず、ほかにもあったはずの可能性を失うことになってしまいます。

そこで、計画された偶発性理論では、キャリアを形成していく上では何が起きるかわからないことを前提に、予期せぬ偶然の出来事によってキャリアが決定されると考え、その出来事を積極的に引き寄せてステップアップの機会を創出していこうとします。そのために大切なこととして、クランボルツ教授は、好奇心を持って新しい学習機会を模索し、失敗に屈せず努力し続けることや、新しい機会が必ず実現すると楽観的に捉えること、また、考えや行動をフレキシブルに変え、結果が不確実でもリスクを取って行動することを挙げています。

計画された偶発性理論が示すのは、偶然を自分自身でチャンスに変える積極性の大切さ。企業のキャリア教育においても、こうした考え方を示唆することは今後ますます重要になってくるでしょう。