昨年12月、全国の企業の採用担当者を驚かせるニュースがあった。株式会社ドワンゴ(以下D社)が、新卒採用の入社試験に受験料として2,525円を課す、というものである。
『本気で当社で働きたいと思っているかたに受験していただきたいからです。』と説明している。
新聞等報道によると、この受験料制度の導入により、2015年春入社分の書類応募総数は64%減少し、かつ応募者の質は高くなったという。本気度を量りたいとするD社の狙いはひとまず成功したと言えそうだ。
しかし、この受験料制度に対して、厚労省が“待った”をかけた。その理由の一つが、職業安定法第39条に違反する可能性があるということのようだ。厚労省はD社に対し、2016年春入社以降はこの受験料制度を止めるよう「口頭で助言」したという。
今回厚労省が指摘した、職業安定法(以下「職安法」)第39条とは、次のような内容のものである。(一部編集して記載)
『労働者の募集を行う者は、募集に応じた労働者から、その募集に関し、いかなる名義でも、報酬を受けてはならない。』
つまり、会社は、求職者からお金をもらってはいけないのである。当たり前過ぎて誰も気に留めなかった規定であったが、今回のD社の事件で注目されることとなった。D社の場合、「受験料=報酬」と判断されるかどうかがポイントとなりそうであるが、報酬を単なるお金と考えた場合には、受験料は報酬であるとされ、職安法第39条違反が成立する余地はゼロではないと考えられる。
一方、職安法では第40条で次のようにも規定している。(一部編集して記載)
『労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事する者に対し、賃金、給料、その他これらに準ずるものを支払う場合を除き、報酬を与えてはならない。』
こちらは、会社は労働者の募集時に、お金をあげてはいけない、という規定である。
そんなことがあるのか?と不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれないが、これは結構あるのである。代表的なケースとして、職場内での「新人さん紹介キャンペーン」が挙げられる。「面接に来たら○○円」「採用したら○○円」「半年間勤務が続いたら○○円」……といった具合に、新たに労働者を紹介してくれた従業員に対して謝金を支払うといったもので、決して珍しい話ではない。では、この「新人さん紹介キャンペーン」は職安法違反にならないのだろうか。これも判断は難しいが、違反になる可能性はやはりゼロではない。
ただ、職安法第40条の規定では、「賃金、給料、その他これらに準ずるものを支払う場合を除き」とあることから、紹介謝金を賃金等に組み込むことで法違反リスクを回避できる余地がありそうである。やや強引であるが、「新人紹介手当」等の諸手当を就業規則等で整備するなどの方法が考えられる。是非対策をおすすめしたい。
以上、労働者募集に関わる2つのお金の問題を挙げてみた。要するに職安法は「労働者の募集にお金を絡ませるな」と言いたいようだ。D社のように採用試験の受験料の徴収をしたり、社内で新人紹介キャンペーン等の実施をご検討の場合は、職安法違反にも注意が必要だ。上記の職安法第39条、40条違反については罰則規定もあり、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金である。(職安法第65条6号)
出岡社会保険労務士事務所 出岡 健太郎