まもなく終わろうとしている平成の時代は、「仕事のツール」という観点で振り返ると、大きな変革のあった時代と言えよう。ここ20~30年の間に携帯電話の人口普及率は100%を超え、多くの人がスマホやタブレット端末を持ち、インターネットを通していつでもどこでも繋がることができるようになった。しかしそうした技術の進歩は、多くの利便性をもたらすとともに、新たな労務管理上の問題も生みだした。休日や勤務時間外にも仕事の電話やメール対応等を求められ、退職にも繋がるような労務トラブルが発生している。海外ではそうした対応を拒否できる「つながらない権利」の法制化も進んでいるという。今回は、この「つながらない権利」問題について、認識すべきリスクと、その対策について考えてみたい。
10連休直前!つながらない権利対策を考える

携帯端末の業務利用に潜むリスク

【リスク1…法令違反リスク】
まず絶対に押さえておきたいのが、平成29年1月に策定された「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」である。これには次のように明記されている。(一部編集して転載)

「使用者の指示があった場合に即時に業務に従事することを求められている時間は労働時間である。」

この基準に照らすと、休日や勤務時間外の仕事の電話等の対応は、場合によっては、その待機中の時間も含めて労働時間である、と判断される可能性もあり、これは賃金未払い等の大きな法令違反リスクとなる。また、執拗な連絡はパワハラになる恐れもあり、この点も注意したい。

【リスク2…士気・生産性低下リスク】
次に考えられるのが、士気や生産性が低下するリスクである。休みの日に上司等から必要と思えない要件の電話が度々掛かり、モヤモヤした気分になったことがある人は多いのではないだろうか。

いわゆる電話魔、メール魔は、まず間違いなく職場で嫌われる。そうして人間関係に歪みが生じると、職場の士気や生産性にも暗い影を落としてしまうだろう。こうした感情面の問題も、決して軽視できるものではない。

“つながらない権利”への対策はどうする?

とは言え、仕事の現場では、例え休みの日であっても、本人と連絡を取らなければならないケースも起こり得る。上記2つのリスクを踏まえると、企業側の行動として、次の3要件が見えてくる。

【対策】
・休日や勤務時間外に連絡することに「納得」してもらう
・即時の対応を求めない
・対応するかの判断は相手(労働者)側に委ねる

この3要件を満たす社内ルールを作ってみるとよさそうである。例えば、次のようなルールはどうだろうか。
10連休直前!つながらない権利対策を考える
こうするとレベルAの内容ならば、休日に電話が掛かってきたとしても「納得」が得られるのではないだろうか。またレベルBでは、文章に「返信不要」と書き添えるなど、相手に配慮することも大切であろう。返信などの対応をしなかったことを理由に不利益な取り扱いをしない、ということは言うまでもない。

10連休も想定される今年のゴールデンウィークを目前に控えているが、10日間丸々連絡が取れないとなると、困ることもあるだろう。これを機に休日中の連絡のルールを策定し、社員に理解を求めておくとよいかもしれない。

こうした「つながらない権利」の問題は、労働問題であると同時に、発信者のモラルやマナーの問題でもあるような気がする。普段、部下や職場の仲間に、気安く、安直に電話を掛けてはいないだろうか。「時は金なり」とも言う。相手から時間を奪うことの重大性を常に意識した行動を心掛けたいものである。

最後に、かの堀江貴文さんの著書にある言葉を紹介し、本稿の締めくくりとしたい。いささか極端な主張ではあるが、何らかの気付きが得られると思う。(以下、堀江貴文著『多動力』幻冬舎<2017>より一部抜粋)

「今日の着信履歴を見てみよう。そこに並ぶ人たちが『あなたの時間』を奪った犯人だ。(中略)ちなみに、発信履歴はあなたの被害者リストだ。」
出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎

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