労働保険や社会保険などはどうなるか?
では、自社の従業員が、副業先でも新たに雇用関係を築けば、どういう問題が起こるかを考えていこう。まず、労働時間だが、その日1日で本業と副業を行う場合、労働時間は通算される。例えば、本業で7時間、副業で2時間働いたとすると、労働時間は9時間となり、法定労働時間を上回ってしまう。
この場合、残業代を支払うのは、後から契約した会社の事業主であり、多くの場合、副業先が該当するのではないだろうか。(ただし、実務でこのルールが厳格に適用されているかと言えば、疑問がある。)また、雇用保険は、主たる賃金を受ける会社が被保険者になり、通常、本業の会社が該当するので、問題はないと思われる。
労災保険に関しては、それぞれの会社で被保険者になるため、万一、賃金の少ない副業先で労災事故に遭い、休業補償や障害補償を受けてしまう場合、非常に少ない額の補償しか支給されないので、労働者は要注意である。健康保険・厚生年金は、副業先が短時間勤務で適用除外であれば、問題ない。
しかし、適用要件に該当した場合、従業員が保険者を選択することになる。大抵の場合、本業の企業が、副業先の分も代行して手続や支払いも行うと思われ、手間が掛かることになるだろう。
就業規則にはどう規定したらよいか?
上記のことから、副業・兼業を認めてあげたいが、手続きなどで不安や問題があるようであれば、「勤務時間外において、会社以外の業務に従事する場合は、個人事業主や委託、請負業務等、他の会社と雇用関係にあるもの以外に限る。」
などの条文を就業規則に記載し、副業先と雇用関係を結ぶのを禁じる方法もある。
会社側から すると、社員が副業・兼業を行うことで心配になるのは、本業に支障が出ないか、営業上の秘密が漏洩しないか、競業やライバル企業に勤めないか、さらには、会社の社会的な信用を傷つけないかといったことが挙げられる。
こうした点を考慮し、後に問題が起こった際に許可を取り消せることが出来るような規定を就業規則に入れておくべきである。
具体的には、以下の条文例を参考にされるとよい 。
(第○○条)従業員が副業を行う場合は、会社に事前申請をして許可を得ること。ただし、以下の事項に該当する場合は、許可をしないこともある。また、一度許可をした場合でも、後に該当すると見なされた場合は、許可を取消すこともある 。
(1)労務提供上の支障がある場合
(2)現在の事業と競業する場合
(3)企業秘密が漏洩する場合
(4)その他会社の信用や名誉を損なう行為や、社内の秩序を乱すと思われる場合
また、これとは別に、職務専念義務(勤務時間中は、自己の業務に専念すること)、秘密保持義務、競業避止義務なども、別の条文で規定しておくとより盤石になるだろう。
“副業”から“複業”の時代へ
最近のトレンドとしては、“副業”ではなく、“複業”という言葉が取り沙汰されている。副業は、勤務が終わった時間などを有効的に活用して、本業で足りない収入を得るための補助的な仕事であるケースが一般的だが、複業は、本業では出来ない、自分のやりたいことに取り組むことを言う。この複業が、副業と決定的に違うのは、お金のためだけではなく、自分の夢や目的を叶える為に働くという点だ。
複業研究家の西村創一朗氏に よると、複業を成功させるポイントは、本業をおろそかにしないこと、複業を行っていることを周りにオープンにすること、睡眠時間を削らず健康に留意することだという。この通りに実践してくれれば、従業員が複数の仕事をすることは、企業にとって決して悪いことではない。
そうした複業によって新たに知識、スキル、人脈などを得ることができれば、本業と相乗効果を生み出すことも可能である。従業員側からすると、今の仕事を続けたままやりたいことを出来るのであれば、リスクを冒して転職をする必要もないし、企業側にしても、従業員の離職が防げることになる。まさに複業は、従業員側、企業側双方にとってメリットが大きいということになる 。
当然ながら、経営者や人事担当者および上司は、副業をしている従業員が働き過ぎていないか、休憩は取れているかなど、健康状態を把握し、副業による問題を抱えていないかを常に確認する必要がある。
いや、常日頃から全ての従業員としっかりとコミュニケーションを取り、悩みや不安はないか、健康状態は大丈夫かといったことを気に掛けるのが、管理する者の務めであろう。そうでないと、社員が知らぬ間に“伏業”(=会社に黙って副業を行うこと)に走ることも起こり得る。
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