なお本調査は、学習院大学経済学部経営学科 教授 守島基博氏に分析と分析の解釈に対する協力を得て、取りまとめたもの である。
<左 はパフォーマンスへの影響><右は離職度意向への影響>
・歓迎会など非公式イベント…<○><○>
・中途入社者同士のコミュニティづくり…<○><×>
・導入研修…<―><○>
・入社数ヵ月後の集合研修…<―><―>
・定期的な人事との面談…<◎><―>
・定期的な上司との面談…<○><◎>
・定期的な入社後アンケート調査…<―><×>
・教育・⽀援担当制度(メンター・ブラザー・シスター)…<○><―>
・労働組合からの説明…<―><―>
(※◎=最も好影響、〇=好影響、×=悪影響、―=影響なし)
最もパフォーマンスに好影響を与える施策は「定期的な人事との面談」であった。また、どのような施策もパフォーマンスに対しマイナスに働くことはないようだ。
一方、最も離職意向度を低減させる施策は「定期的な上司との面談」であった。「中途入社者同士のコミュニティづくり」や「定期的な入社後アンケート」は、かえって離職意向度を高めることが明らかとなった 。
■中途入社者向け各施策の実施率
・歓迎会など非公式イベント…(44.3 %)
・中途入社者同士のコミュニティづくり…(15.4%)
・導入研修…(40.9%)
・入社数か月後の集合研修…(21.7%)
・定期的な人事との面談…(14.6%)
・定期的な上司との面談…(27.1%)
・定期的な入社後アンケート調査…(8.6%)
・教育・⽀援担当制度(メンター・ブラザー・シスター)…(10.4%)
・労働組合からの説明…(9.0 %)
「歓迎会など非公式イベント」および「導入研修」は4割を超える実施率であった。次いで、「定期的な上司との面談」、「入社数か月後の集合研修」の実施率が高いが、パフォーマンスに好影響を与える「定期的な人事との面談」は実施率が低いようだ 。
――これら分析結果を総括し、森島教授は 次のように述べている。
「これまで、中途入社者の定着や期待されるパフォーマンスの発揮は、研究面、実務面ともにあまり注目されていませんでした。また例えば、新卒入社者の離職を説明する時に使われるリアリティ・ショックという説明も、経験の深い即戦⼒採用者には当てはまりがよくありません。
本調査は、中途入社者の定着やパフォーマンスの向上のために人事部門や現場が何をすべきかを明らかにした点で意義があるものです。中でも重要なのは、たとえ中途入社者であっても、入社直後に人事部門や現場リーダーから受けた⽀援が大きな意味をもつということです。初期のオンボーディング活動が極めて重要であるということでもあります。
また人事部門の⽀援は仕事面での成果に、現場上司の⽀援は離職意向という⼼理的な面にそれぞれ統計的に有意な影響があるというのは重要な発⾒です。恐らく入社者がこれまで培った経験や能⼒を新たな組織で発揮できるように助けるのが人事部門の役割であり、また上司は中途入社者に⼼理的安全を提供し、定着を促進するエージェントであるという位置の違いが明らかになったと思われます。
ただ、こうした活動の実施率は低いという発⾒も得られ、中途採用が戦略採用になればなるほど、人事部門や現場リーダーには採用直後の⽀援を⾏うことが求められます。」