4月に昇給すると8月に『月変』の提出が必要
毎年7月は社会保険事務担当者にとって、最も忙しい月である。年に一度、標準報酬月額を見直すための『算定基礎届』の提出と、夏のボーナス支給に伴う『賞与支払届』の提出が重なる時期だからだ。しかしながら、7月の繁忙期終了後に行うべきもう一つの手続きがあるので注意をしたい。それは8月に発生する「随時改定」の手続きである。「随時改定」とは、厚生年金保険・健康保険関係の仕組みで、基本給を変更した場合などに変更から3ヵ月経過した時点で必要となる手続きである。この手続きにより、次の『算定基礎届』の提出時期を待たずして標準報酬月額を変更しなければならない。「随時改定」の手続き時には、『月額変更届(通称:月変(げっぺん)』という手続き用紙を提出することが義務付けられている。
4月が昇給月の企業は多数存在する。そのような企業が給料を翌月払いにしている場合、昇給後の給料が初めて支払われるのは5月になる。「随時改定」は、昇給後の給料が3ヵ月支払われた後に手続きを行う必要があるので、5・6・7月に昇給後の給料が支払われ、その翌月である8月が「随時改定」の手続きが必要な月になるわけである。
手続きが遅れると添付書類が必要になる
「随時改定」にはいくつかの注意事項がある。初めに、「随時改定」は昇給後、3ヵ月の給料の平均額から求めた標準報酬月額が、従前の標準報酬月額と2等級以上の差がある場合にのみ行うものである。そのため、昇給はしたが等級が1等級しか変わらない場合には、対象にならない。たとえば、今までの給料が21万円、標準報酬月額が15等級の22万円のケースを考えてみる。この社員の基本給が4月から上がり、5~7月に支払われた給料の平均額が23万円になったとする。23万円は保険料額表に当てはめると23万円以上25万円未満に該当し、標準報酬月額は16等級の24万円となる。この場合、昇給は行われたものの等級は1等級しか変わらないので、「随時改定」の対象外となる。
また、通常、「随時改定」の手続きに添付書類は不要だが、手続きが60日以上遅れた場合には添付書類の提出が求められる。たとえば、手続き対象者が一般社員の場合には、『月変』に賃金台帳や出勤簿のコピーを付けなければならない。手続き対象者が役員の場合には、「株主総会または取締役会の議事録」「代表取締役等による報酬決定通知書」「役員間の報酬協議書」などの提出が必要になる。手続きが60日位以上遅れると、添付書類の用意が煩雑になるため、遅れずに手続きをすることがポイントと言える。
さらには、標準報酬月額の等級が5等級以上、下がるような手続きを「随時改定」で行う場合には、手続きが遅れていなくても、同様の添付書類の提出が必要になってくる。標準報酬月額が下がるということは、企業側が負担しなければならない社会保険料額が少なくなることを意味する。したがって、社会保険料負担の不適切な削減行為を回避するため、添付書類による事実確認が必須となるわけである。
残業が増えただけでは「随時改定」の対象にならない
中には、昇給したわけではないが、残業が増えたために給料額が増えたというケースもあるだろう。この場合は、仮に、増えた給料が3ヵ月にわたって支払われ、その結果、標準報酬月額が従前よりも2等級以上変わったとしても、「随時改定」の対象にはならない。「随時改定」は、固定的賃金と呼ばれるものが変更になった場合が対象だからである。固定的賃金とは、基本給や定額の手当てのように、毎月、同じ金額が支払われるものを言う。通常、残業によって発生する時間外手当は毎月、同じ金額を支払うわけではないため、ここで言う固定的賃金には分類されない。そのため、残業が増えたために給料額が増えたという理由だけでは「随時改定」は行われないのである。
「随時改定」の手続きは、企業側に課された法律上の義務である。「随時改定を行うと保険料額が増えるから行いたくない」などの声を企業関係者から聞くことがあるが、そのような行為は許されない。手続きは忘れず、迅速に行いたいものである。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)