高まる短時間正社員のニーズ、制度未整備が普及を妨げる
同調査によると、回答者の77.2%が「短時間正社員で働いてみたい」と回答している。また、今もっとも望ましい働き方を尋ねる質問でも、32.7%が「短時間正社員」と回答。フリーコメントでは、「家事のこととかを考えると、短時間がいい。でも、安心して働くためには、正社員としての保証もされたい」「未就学児がいるので、勤務時間と体力に制約があるが、将来はきちんとキャリアを積みたい」「フルタイムでの勤務は難しいが、業務としては正社員と同等の仕事を任されてみたいと思うから」といったリアルな声が集まった。その一方で、回答者の88.7%は「短時間正社員として働いたことがない」のが現状だ。回答者に、短時間正社員の普及を妨げるものを尋ねると、「事例が少ない」(55.5%)、「就業規則による制限」(50.1%)などの回答が上位を占めている。特に、「就業規則による制限」と回答した人に、具体的な制限の内容を尋ねたところ、「そもそも短時間正社員制度を設けている企業が少ない」という回答が89.6%にも上った。
このような現状に対して、しゅふJOB総研 所長 川上敬太郎氏は、「(短時間正社員普及のための)体制整備を急ぐ必要性を感じます」とコメントしている。
61.3%の企業が育児・介護休業法の範囲を超える短時間正社員制度は未導入
国内企業における短時間正社員制度の導入状況については、厚生労働省が2015年に実施した「短時間正社員に関する企業アンケート調査」の結果から把握することが可能だ。同調査で有効回答を得た2,379社のうち、61.3%が「育児・介護休業法に定められた短時間正社員制度」のみを導入している(以下「未導入」と定義)と回答している。また、導入状況については、企業の従業員規模や業種などによって差が出ていることも明らかになった。
▼従業員規模が小さいほど未導入の割合が大きい
短時間正社員制度「未導入」の割合は、従業員規模「~30 名」「31~100 名」「101~300 名」ではいずれも約7割に達した。一方、「301~1,000 名」では51.7%、「1,001 名以上」では29.6%となっており、従業員規模の小さい中小企業では、制度の導入に踏み切れない実態が明らかになっている。
▼非正社員比率が高いほど未導入の割合が大きい
「未導入」の割合は、非正社員比率が「20%未満」の場合は52.7%、「60%以上」の場合は66.5%となっている。
▼医療・福祉や建設業は未導入が多く、情報通信業や金融・保険、不動産業で導入割合が高い
「未導入」の割合が高い業種は、「医療・福祉」(69.4%)、「建設業」(66.0%)、「宿泊業、飲食サービス業」(64.2%)。一方、育児・介護休業法の範囲を超えた短時間正社員制度を導入している割合が高い業種は、「情報通信業」(50%)、「金融・保険、不動産業」(46.3%)、教育、学習支援業(45.9%)という数値だ。特に対人業務が多い業種で、未導入の割合が高いことがわかる。
なお、未導入の理由については、「既存の制度や体制で十分に対応が可能だから」(33.3%)、「従業員のそのような働き方に対するニーズがないから」(25.2%)、「自社になじむ職種がないから」(18.7%)といった回答が上位を占めた。
「従業員のそのような働き方に対するニーズがないから」という企業の認識については、先述したしゅふJOB総研の調査結果からヒントを得られる。
しゅふJOB総研の調査によると、今もっとも望ましい働き方を尋ねる質問については、「短時間非正規社員」が38.3%でもっとも高い割合だった。理由としては、「まだ子育て中ということと、自分自身も責任の重い仕事はしたくない(できない)から」というフリーコメントにも見られる通り、仕事の負担が重くないことがポイントになっていると考えられる。しかし一方で、「もし、家庭などの制約がなく、100%仕事のために時間を使える場合のもっとも望ましい働き方」については、「フルタイム正社員」62.2%、「短時間正社員」18.7%という結果になっている。
このことについて川上氏は、「(働く主婦が)家事や育児など、家の都合を優先させるためにキャリアをあきらめてしまっているようにも見える」と指摘。数字上では、短時間正社員のニーズは少ないように思われても、表面化されない働く主婦の本音をくみ取っていく必要があると考えられるだろう。