はたして上司は、本当に長時間労働の人を頑張っている人と思っているのだろうか。
たとえば、高い評価を得ている人は、たまたま残業が多いだけで、評価の対象に長時間労働は加味されていないかもしれない。何をもって社員を評価しているのかが明確にされていないと、事の真偽はわからない。遅くまでがんばっているなぁと上司に声をかけられれば、褒められていると解釈してもおかしくない。
ところで、何が評価の対象なのかわからなければ、上司に聞けばすむことなのだが、聞けない、あるいは聞かない。これこそが問題で、普段のコミュニケーションが取れていない現れであろう。しかしそのままにしておくと、あの上司に評価されるのはいやだ、とか、評価なんかできるのかと、自分で勝手に不満を募らせ、退職を選択してしまうことにもなりかねない。
社員が辞める本当の理由は
・お金
・やりがい(評価に納得いかない)
・人間関係や組織・風土
と、言われている。
お金もやりがいも、大きな問題ではあるけれど、賃金制度や評価制度の仕組みづくりで改善は可能だ。しかし、人間関係や組織・風土の改善となると、一朝一夕ではできない。
もちろん人間関係を仕組みに落とし込むことは可能だ。評価のフィードバックがそれである。評価の確定後、必ずフィードバックすると制度化してしまえば、いやでも上司と部下は向き合うことになる。
しかし、これがなかなか機能しない。上司にとってはこの時期、まさにフィードバックの憂鬱である。
そもそもフィードバックは何のために行うのだろうか。期首に今期の目標設定の面談を行い、評価が確定した後に、その結果を部下に伝えるのがフィードバックの場とされている。だが、フィードバックは、評価の確定内容を伝えるためだけではないはず。
フィードバックの場では、何ができていて何ができていないのかを伝えて、共通の認識としたうえで、できなかったことの改善目標を設定することが重要なのである。しかし、これがなかなか伝えられていない。それが上司の憂鬱の原因である。
上司の一番の役割は部下のマネジメントである。マネジメントができているかどうかは部下の成長で測られる。組織として成果を出すためにも、部下を成長させなければならない。
部下指導にはPDCAサイクルを用いる。PDCAサイクルとは、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4 段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善するものだが、これは本人だけが繰り返すのでは効果がない。上司もまた、部下に対して、計画策定の指導→行動を指導→評価を指導→改善内容を指導し、支援するという4段階を繰り返すことである。これを日常業務の中に落とし込んだ場合、そこには必ずコミュニケーションが関わってくる。マネジメントは、コミュニケーションをとることでもある。
どうすればコミュニケーションをとることができるのか。
コミュニケーションとは、情報や内容をさまざまな手段で伝えあうことである。上司がどれだけ有意義な事を説いても、信頼関係がない人の言葉は相手には伝わらない。伝わらなければコミュニケーションはできない。なにより信頼関係を築くことが先決である。
上司は部下の行動を否定するのではなく、まずは肯定することを心がけよう。
人は誰しも肯定(=認められる)されたいと思っている。自分を認めてくれる人には友好的な感情をいだくもの。そうして初めて、上司の言葉が耳に入ってくるというものである。部下を指導して行動の改善、変化を促そうと思うならば、まず部下の行動を肯定することである。信頼関係が生まれ、部下に変化を受け入れる心の余裕が生まれるまでは、叱ることより褒めることを意識して増やすことが得策である。
上司がPDCAサイクルを繰り返して指導すれば、部下は自発的に次期の課題に気付くことができるようになる。自力で課題を見出せるということは、仕事がわかってきているということである。これまで意味がないと思っていた仕事の意味が見えてくるようになる。
自分の仕事が見えてくれば、少なくとも、わかりあえないという誤解から生じる退職は回避できる。
鈴木社会保険労務士事務所 鈴木 早苗