新入社員や社歴の浅い社員は「どのような役割の与え方をするか」により、仕事に対する姿勢に違いが現れることがある。皆さんは新入社員、社歴の浅い社員に役割を与える際、どのような考え方で仕事内容を決めているだろうか。
若年社員への「役割の与え方」

「業務の都合」だけで役割を決めていないか

ひとつ事例を紹介しよう。

「サービス業を営むA社はパートタイマーが主戦力である。そこに学卒の新入社員が入ってきた。A社ではその新入社員が現場業務を短期間経験したところで、諸事情により急きょその社員にパートタイマーを指導・監督する役割を与えることにした。新しい役割を与えるに当たっては、監督業務に必要なマネジメント研修も簡単に行った。ところが、突然、パートタイマーを指導する役割を与えられた新入社員は、自分の親と同世代の年長者を指導する業務になかなか馴染めず、徐々に遅刻・欠勤が増えた。現在は退職を申し出ている状態である」

この企業ではパートタイマーの指導・監督を行う人員が不足していたのだろうか。あるいは、業務拡大などに伴って新しい監督業務が発生し、新規に指導・監督を行う人員が必要になったのだろうか。いずれにしても、“業務の必要性”や“業務の都合”により若年社員に指導・監督という役割を与えたのであろう。

このように、多くの企業では“業務の必要性”や“業務の都合”により若年社員の役割を決定している。もちろん、それ自体に問題があるわけではないのだが、“業務の必要性”だけで若年社員の役割を決めた場合、その社員が新しい役割を担う準備ができていないケースでは業務に対するモチベーションが低下し、仕事に対する“好ましい姿勢”が醸成されないことがあるので注意が必要である。

それでは、若年社員の役割を決める際には、“業務の必要性”以外に何を考慮すべきなのだろうか。

「“育てる”ために何をさせるか」を考える

若年社員に役割を与える際には、単に“業務の必要性”や“業務の都合”だけで役割を決めるのではなく、「その社員を“育てる”ためにはどのような役割を与えるべきか」を常に考慮することが重要である。近い将来、企業の中核を担うであろう貴重な学卒新入社員を「無理なくステップアップさせるためには、今、何をさせることが最も好ましいのか」という視点も交えて役割を決定しなければならない。

具体的には、初めに「その社員に今後1年間でどの程度の知識・スキルを身につけてほしいのか」を定めた「成長目標」を設定する。その上で、その「成長目標」をクリアするために必要な業務上の役割を抽出し、抽出された役割をどのような順序で経験させるかを定めた「育成プラン」を立てる。あとはその社員に対して「成長目標」や「育成プラン」を事前によく説明した上で、「育成プラン」に沿って計画的に役割を与えていく。このような段取りを取ると、与える役割に無理が起こりづらく、また、若年社員の納得性が高い役割を与えることが可能になる。その結果、仕事に対する前向きな感情などの“好ましい姿勢”が現れやすくなるものである。

これに対して先ほどのケースは「その社員を“育てる”ためにはどのような役割を与えるべきか」という視点が欠落している典型例と言える。「目標」を示さず「プラン」もなく、「急きょ、この業務に人が必要になった」という“業務の都合”だけで無計画に役割を決めているからである。このような手法をとると無理が起こりやすく、また仕事に対する納得性も高まらない。その結果、モチベーションの低下に起因した離職につながるケースも少なくない。

このような話をすると、「急きょ欠員が発生したときは、業務都合だけで役割を決めても仕方がないのでは?」という声が聞こえてきそうである。先ほどのA社のケースでも、緊急で監督職を増員する必要性に直面したのかもしれない。しかしながら、そのような場合には「そもそも、なぜ急な欠員が発生したのか」をよく考えてみたい。もしかしたら、欠員発生の大きな原因の一つが、社内で慣例化している「社員への無計画な役割の与え方」にあるかもしれないからである。若年社員は次代を担う貴重な人材である。ぜひとも、「その社員を“育てる”ためにはどのような役割を与えるべきか」という視点を持ち、計画的な人材育成に取り組んでいただきたい。


コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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