12月がやってきた。経団連の倫理憲章が定める就活解禁日がやってきた。2015年度新卒採用が本格的にスタートした。
「公平な就活幻想」の終わりの始まり

 「本格的に」と書いたのは、HRプロのこのコラムを読んでいる採用担当者、人材ビジネス関係者に対しては釈迦に説法だろうが、もうすでに水面下での接触が始まっているからである。
 今年の就活界の最大の話題といえば、2016年度からの就活時期の繰り下げである(先日、NHKのラジオに出演した際にプロデューサーから指摘されたのだが、「後ろ倒し」という表現は好ましくなく、「繰り下げ」が正しいそうなので、今後はこちらを使うことにする)。ただ、その変化に向けた実験は2015年度採用から始まっている。特徴的な動きとしては次の5つを挙げることができる。

1.巧妙な早期接触
2.応募条件のハードルを高くする
3.リアルな接点の強化
4.女性採用の強化
5.大学の成績重視

 これらについて、説明することにしよう。

1.巧妙な早期接触と囲い込み
 これは、2013年度採用で、倫理憲章が見直しとなり、採用広報開始が大学3年の10月から12月に繰り下げになった頃から行われていた。そもそも、日本の就活の歴史は、採用時期の見直しの歴史であり、それが守られた試しがない歴史なのだが。
 インターンシップ、キャリア支援という名目のセミナー、内定者が主催するセミナーなど、早期接触の手段がこなれてきており、定着してきているとすら言える。なお、インターンシップは大学3年の夏だけでなく、毎月のように実施する例や、期間を長くして囲い込む例なども見受けられる。2016年卒でも、この流れはますます顕著になるだろう。

2.応募条件のハードルを高くする
 ドワンゴの、受験料を取る採用が話題になっている。賛否両論を呼んでいるが、私は、応募のハードルを上げる取り組みであると見ており、ここ数年の採用の流れとも合致したものだと捉えている。
 お金を取るのは極端な例だが、応募のハードルを上げることによって母集団を最適化する動きは、ここ数年、進んできたことは明らかだ。TOEICの点数を書かせる採用や、プログラミングのスキルを持った者を対象とする採用などである。そもそも、難問化したエントリーシートなどもその動きだと言えるだろう。
 なお、他の企業も有料化するのかなどの懸念もあるかと思うが、おそらくないだろう。普通の大企業は、批判などを懸念して行わないし、中堅・中小企業なら応募がなくなってしまう。話題作りの一つであり、企業姿勢を伝える工夫だったと解釈している。
 
3.リアルな接点の強化
 リクルーターはもちろん、小~中規模のセミナーなどを強化する動きが顕著だ。リアルな接点で企業の風土や熱を伝える取り組みだと言えるだろう。企業同士がコラボした合同説明会の事例もいくつか見かける。学内企業説明会も盛り上がりを見せている。
 就職情報会社の合同説明会などではなく、手作りの小~中規模のイベントが企業から支持されていると感じる。

4.女性採用の強化
 「男社会」と揶揄されているような、男性中心だった企業が女性を積極採用するようになってきた。求人が回復し、金融機関の一般職、特定総合職の採用強化の動きも見られるが、それだけではないだろう。もともと選考においては「女性が優秀」だとよく言われ、男性は下駄を履かせて採用する動きがあった。現在においては、より企業がなりふり構わず採用するようになっている。その現れだと言えるだろう。
 電通、資生堂など大手9社が行った、「汐留女子会」というイベントなどはその象徴だと言えるだろう。

5.大学の成績重視
 選考の際に成績表を提出する動きが話題になっている。三菱商事や富士通、帝人などの大手企業が実施に踏み切る動きが、12月8日付の日本経済新聞で報道され、話題になった。
 ここ数年、成績重視の動きは水面下で広がっていた。単に学業重視というわけではない。大学の成績は人物を評価する上で、大変に便利だからだ。というのも、成績表をもとに質問をしていけば、物事の取り組み姿勢などを評価しやすいからだ。「学生時代に力を入れたこと」という質問では、学生が好き好んで行った、得意なことの話が中心になってしまう。成績表をもとに面接すると、やらなければならないこと、苦手なことへの取り組み姿勢もわかるのである。

 就活時期の繰り下げは少なくとも建前では学業重視という考えから行われるわけだが、実際に選考でも学業を重視する動きが顕著になるだろう。あくまで取り組み姿勢の評価が中心になるだろうが。

 この2015年度採用の動きが示すものはなんだろうか。ずばり、就職ナビの功罪の「罪」の部分である、肥大化した母集団や、平等・公平幻想への破壊であると言える。
 今後は、ターゲットの絞込がますます行われ、最適な母集団形成という取り組みが顕著になると言えるだろう。そして、誰もが応募できる公平な採用から、よくも悪くも変化していくだろう。
 もう変化はすでに始まっているのだ。


HR総合調査研究所 客員研究員 常見陽平
(著述家、実践女子大学・武蔵野美術大学非常勤講師)

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