株式会社東京商工リサーチは、2024年6月19日に「企業の人材確保・退職代行」に関するアンケートの結果を発表した。調査期間は同年6月3日~10日で、有効回答5,149社の回答結果を「大企業(資本金1億円以上)」と「中小企業(同1億円未満)」に分けて集計し、傾向を分析している。調査結果から、人材の流動化に伴う人材確保の難しさに直面する各企業の対応が明らかとなった。
大企業の約2割が「退職代行」による従業員の離職を経験。各業種が“人材定着”に向けて講じるべき対策方法とは

7割以上が人材確保のための「賃上げ」を実施

2024年の春闘における労使交渉では、大企業の「満額回答」が相次ぎ、労働団体の連動の集計によると、全体の前年からの賃上げ率は5%超の高水準となった。この背景には、物価高が進む経済情勢と政府による働きかけがあるが、同時に労働力不足が進む中で“いかに人材を確保するか”という企業の人材戦略がある。そうした人材戦略について、企業はどのように取り組んでいるのだろうか。

まず、「2023年1月以降に人材確保(新規採用・離職防止)に向けて実施した施策」について東京商工リサーチが尋ねた結果、最多となったのは「賃上げをした」で、全体の73.3%となった。同回答は他の施策と比べてダントツの割合で、大企業では84.9%、中小企業では72.2%が回答している。また、次点以降を全体回答結果が多かった順に見ていくと、「休暇日数を増やした」が24.4%(大企業:17.7%、中小企業:25.2%)、「社内レクリエーションを実施した」が10.5%(大企業:12.1%、中小企業:10.3%)となった。一方で「施策は取っていない」は全体の6%(大企業:8%、中小企業:5.7%)と一桁になり、多くの企業が人材確保に向けた施策を行っている実態が分かった。
人材確保のための施策実施状況

「退職代行」業者は全体の1割、大企業の2割弱が経験

次に、「2023年1月以降、退職代行サービスを利用した従業員の退職があったかどうか」を同社が尋ねた。すると、全体結果では「正社員・非正規社員であった」が1.9%、「正社員のみであった」が6.3%、「非正規社員のみであった」が0.9%だった。これらを合計した「退職代行を活用した従業員の退職があった」との回答は9.3%と、全体の1割に迫っている。

さらに企業規模別に見ると、「退職代行を活用した従業員の退職があった」という企業は、資本金1億円以上の大企業で合計18.4%、資本金1億円未満の中小企業で合計8.3%だった。大企業の方が2倍以上多く、退職代行サービスが世の中に浸透していることもうかがえた。
退職代行の利用状況(全体)
退職代行の利用状況(企業規模別)

退職代行による退職は「BtoC業種」が上位に。人材引き留めの難しさがうかがえる

同社は「退職代行を活用した従業員の退職があった」と回答した企業について、「業種別」にも分類している。その結果、最も多かった業種は、美容・理容業、クリーニング業などを含む「洗濯・理容・美容・浴場業」で、構成比33.3%(15社中、5社)だった。次いで、百貨店などを含む「各種商品小売業」が同26.6%(15社中、4社)、旅館やホテルなどを含む「宿泊業」が同23.5%(17社中、4社)と続いた。特徴として、消費者と直接対面する接客業や販売業の「BtoC業種」が多いことがわかる。同社は、「人材の定着には、給料や待遇、休暇などの待遇改善だけでなく、職場環境や人間関係などのデリケートな問題にも目を配る必要がある」との見解を示している。
退職代行の利用状況(業種別)
労働人口減少の影響だけでなく、転職市場の活性化による人材の流動化が顕著になり、各企業が人手不足への対応を余儀なくされている。ニュースなどでも話題となっている「退職代行」について、約2割の大企業が同サービスを利用した退職への対応を経験済と回答し、退職の意思を事前に察知することが難しくなっている状況も垣間見えた。給与や休暇などの処遇を改善するだけでなく、労働環境やキャリア、モチベーションの状態を把握した対策が求められている。

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