2022年同期比で言及数が最も増加したのは「リスキリング」
パーソルでは、人事領域において注目されるワードとして「人事トレンドワード」を選考・発表することで、その時々の人事におけるトレンドやブームを客観的な形として残している。これにより、人事部門にとって本質的に議論・注力すべきテーマの明確化につながり、企業ではこうした流行を戦略的に活用しつつ、本質的に進めるべき施策の指針となることを目的としているという。なお、トレンドワードの選考は、人事担当者へのアンケートやインターネット調査などのデータを基に行っており、同社の研究員が独自に選考しているとのことだ。2023年は、コロナ禍の収束によりインバウンドや国内消費にも回復の兆しが広がり、人材の確保を加速させる企業もあった。一方で、円の下落や物価の高騰、海外情勢の緊迫化など、外部環境の変化も大きかった。このような社会背景や雇用状況、労働市場の変化を鑑み、現在の人事において注力すべき3つのテーマが選定された。
まず同社は、ソーシャルメディアやWebメディアにおけるトレンドワードに関する言及数を、2022年1-2月から2023年9-10月までの推移で示した。すると、2023年10月までの言及数は、2022年同期比で「賃上げ」が180%、「リスキリング」が1049%、「人材獲得競争の再激化」が168%だった。ソーシャルメディア上でも関心の高まりがうかがえる。
【賃上げ】政府や企業の施策によって大幅な上昇へ
従業員の処遇や物価上昇を考慮するなど、政府による賃上げの必要性の周知やインフレ率を超える賃上げに向けた後押しによって、2023年は「賃上げ」ムードが高まった。日本経済団体連合会の「2023年春季労使交渉・大企業業種別妥結結果(最終集計)」によると、大手企業の賃上げ率は、2022年の実績を1.72ポイント上回る3.99%で、これまでのピークであった1993年の3.86%を上回った。賃上げ幅は5,800円上昇して1万3,362円となり、およそ30年ぶりの高水準となった。しかしながら、実質賃金は前年比マイナスが続き、物価上昇には賃上げが追いついていないのが現状だ。「実質賃金の国際比較」を見ると、グローバルな人材獲得競争における待遇面での競争力強化の面でも、物足りない賃上げ率となっていることが見て取れる。
これを受け同社は、「日本では良質なサービス提供のために労働者が長時間働いてやりくりする経営を行ってきたが、そのシステムにも限界がきている」とした上で、「長時間労働の解消には、『職場における管理職の意識改革』、『非効率な業務プロセスの見直し』、『取引慣行の改善』が欠かせない」とコメントしている。さらに、「長時間労働をなくしていきながら賃金を上げていく、この両輪が我が国の経済成長に不可欠だと考える」と続けた。
【リスキリング】政府による補助や人材不足によって注目度が高まる
「リスキリング」については、2022年に政府により「個人のリスキリング支援に5年間で1兆円を投じる」との方針が発表されたことで大きく注目された。2023年には厚生労働省が資格学習の費用を助成する「教育訓練給付」の補助率を引き上げ、デジタル人材の増加促進を図っている。また、経済産業省はリスキリングを経て再就職できた場合に、講座の受講費用などの支援を受けられる制度を導入した。同社はこれを受け、「2023年は『リスキリング元年』といってもよい様相だ」とコメントしている。また、同社が実施した「リスキリングとアンラーニングについての定量調査」からリスキリングの実態を見ると、一般的なリスキリングの経験者やリスキリング習慣のある人は、いずれも3割程度だった。これを受け同社は、「生産年齢人口が今後も減り続け、深刻な人材不足の解消が喫緊の課題である日本にとって、リスキリングは他国以上に取り組まなければならない緊急かつ重要な課題ともいえる」と述べた上で、「国や企業による学びの機会が形骸化しないよう、具体的なポストへのキャリア・パスや処遇の提示、配置転換の施策との紐づけがカギとなりそうだ」との見解を示している。
【人材獲得競争の再激化】「人材減少」と「競争優位産業不在」の二重苦で人材獲得は難航か
2023年は例年以上に人材獲得競争が激化した年だといえる。特に、10月に施行された「インボイス制度」に対応するための業務において、デジタル化やDX化を推進するニーズが高まり、求人数は増加した。さらに、インボイス制度対応にとどまらず、社内育成だけでは質・量ともに人材確保が追いつかないとの理由から、外部人材の獲得競争が激化した。株式会社帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」(2023年7月)によると、「人材不足」と回答した企業の割合は、正社員で半数を超え、非正社員でも4年ぶりに3割を超えたという。2023年の労働市場は景気連動に加えて、生産年齢人口の減少といった構造的な問題や「失われた30年」の反動、そこにコロナ禍を経て景気回復が重なる複合的な要因が生んだ“人材不足現象”が一気に表出したといえる。現在の日本は、生産年齢の減少とともにデジタル領域で欧米に遅れをとっていることから、「人口減少」と「競争優位産業不在」といった苦境の状態にある。同社は、「売り手市場が続くと予想される中で、企業は求職者とのベストマッチングを図るためにも、人的資本経営に関する取組状況を誠実に伝えていくことが重要」とコメントしている。