事業承継の移行期間として最も多いのは「3~5年程度」で約4分の1に
企業経営者の高齢化が進み、全国の後継者不在率は2020年時点で65.1%(TDB「全国企業『後継者不在率』動向調査」2020年11月発表)を記録するなど、後継者不在による事業承継問題は喫緊の課題だ。このような状況のなか、実際に事業承継を実施するには、どの程度の期間が必要となるのだろうか。はじめに、「事業承継を行う際の後継者への移行期間(後継者決定から事業承継が完了するまでにかかる期間)」を尋ねた。すると、最多だったのは「3~5年程度」で26.9%に。以下、「6~9年程度」が13.8%、「1~2年程度」が11.3%、「10年以上」が11.2%と、僅差で続いた。これらを合計すると、移行期間に「3年以上」を要する企業は、半数を上回る51.9%となった。
企業からは、「後継者決定後に、技術系習得のため3~5年の育成期間が必要」(電気通信工事、鹿児島県)や、「スキルだけでなく経営者としての思考性を育成するために、10年以上じっくりと時間をかけたい」(電気機械器具卸売、愛知県)などの声があがった。他方で、「移行期間が延びると後継者のモチベーション低下が懸念されるので、1年以内に交代させたい」(鉄スクラップ卸売、福島県)といった声もあった。
中小企業は、大企業と比べて移行期間が長い傾向にある
また、「事業承継の移行期間が3年以上かかる」と回答した企業を企業規模別に見ると、「大企業」では「3~5年程度」、「6~9年程度」、「10年以上」の合計が41%だった。対して、「中小企業」は合計54.1%、「小規模企業」は合計55.7%となり、それぞれ大企業より10ポイント以上高いことが見て取れる。この要因として、中小企業からは「優良な中小企業も、現在の相続税のルールでは後継者が借金を背負うことになり、困っている」(機械工具卸売、香川県)という税制上の問題や、「事業承継ができる人材を中小零細企業が見つけることは難しい」(生菓子製造、福岡県)といった声があがった。
業界別では「建設業」の長期化が際立つ
さらに、事業承継の移行期間が「3年以上」との回答を、業界別にまとめた。すると、「建設業」が59.9%で最も多く、「6~9年程度」や「10年以上」の割合も、業界別で最も高くなった。建設業からは、「後継者となる子どもが若く、現在工事部の統括部長として現場経験を積ませている」(土木工事、長崎県)といった声や、「技術者の育成に10年程必要なうえ、後継者となるには、さらに3~5年である程度の仕事と経営手法を学ばなければならないため、時間がかかる」(木造建築工事、福岡県)といった意見もあがった。建設業では、開業許可の引継ぎにあたって、「経営業務の管理責任者として5年以上の経験を有した者の在籍が必要」等の要件があり、これが移行期間の長期化の一因となっている可能性がある。また、「製造」(54.8%)や「卸売」(52.2%)でも半数を超え、全体平均の51.9%を上回る結果となった。他方で、「農・林・水産」は32.1%、「金融」は23.6%となっており、他業界と比較すると、移行期間に3年以上を要する割合は低くなった。
新型コロナの影響で、事業承継への意識が変化した企業も
2020年2月以降の新型コロナウイルス感染症拡大により、社会情勢は大きく変化した。このような状況下で「自社の事業承継に対する意識の変化」について尋ねると、「変化した」は8.7%に。その内訳を見てみると、「事業承継の時期を延期」が4.3%、「事業承継の時期を前倒し」が3.5%と続いた。さらに、わずかながら、「事業承継予定から廃業に変更」(0.5%)や、「廃業予定から事業承継に変更」(0.4%)なども見られた。意識に変化があった企業からは、「新型コロナによる経営環境の変化への対応のため、事業承継を延期する」(貸事務所、愛知県)や、「長期的な展望が見通せないので、事業承継に現実味が感じられない」(建築用木製組立材料製造、岩手県)といった意見があがった。さらに、「新型コロナの影響で借入金も増えてしまい、簡単に事業承継できない」(食料・飲料卸売、岐阜県)といった、財務面の課題から事業承継を延期したという声も見られた。