「人が、次から次から(採用面接に)来てくれる時代でもないし、ちょっと仕事が出来ないくらいで、今の従業員を簡単に辞めさせることは出来ないなぁ」これは、ある意味私にとって目からうろこの現場の声だった。そう言われてみるとここ最近、顧問先企業から解雇のご相談などはめっきりと減っており、その代わり採用に関しては本当によくご相談を受けている現実があるのだ。
特に中小企業の採用環境は、冷え切っているといっても過言ではない。要は、人が来ないのである。当然、企業は良い人材だと思ったら、逃さないように囲い込むし、また多くの人は中小企業よりも安定した大企業への就職を目指す人が多いわけであり、ここに少子高齢化もあいまって、中小企業の採用は非常に厳しくなっている。
「そうは言うものの、良質な人材は欲しいし・・・」
人が来ないので、当然、採用基準は緩和!?されがちであるが、わが国の現在の法整備下においては、一度入社した社員は安易に解雇できるわけでもなく、採用にはそれなりに慎重になるのも事実である。万が一、自分の権利ばかりを主張し、仕事もろくに出来ない、いわゆるモンスター社員などが入社してくると他の社員への悪影響、組織としてのパフォーマンスの低下など、企業価値が下がるようなことにもつながるわけであり、企業としては採用には失敗したくないというのが本音である。それゆえ、企業では様々な適正検査などを駆使しながら、コストを掛けてでも、より良質な人材を確保する努力をしているところである。当事務所にもお客様から、何かよい適性検査はないかとよく相談を受けているところであり、企業の採用活動への本気度が最近、特によく感じるようになったところである。こういうことから考えると、企業における採用というのは、たしかに以前より言われてはいたが、人事労務分野における最重要課題であり特に、2050年には、日本の人口が1億人を下回り、その後も加速度的に人が減っていく今の時代においては、採用問題に本当に真剣に取り組まないと、ある日突然、事業がストップしてしまうというのも冗談とは思えない話である。現にいま、私の周囲でも建設業などにおいては、公共事業が受注できる環境にあるが、人の準備が出来ないので、仕事を取れない、みすみす売り上げを落としているという事態が実際に生じている。
採用における勘所とは
最近、私はセミナーなどを通じて、「採用活動は、(通常のビジネス活動と同様)マーケティングだ」と言い切っている。たとえば、ホームページ。商品説明は、充実しているのに、採用活動には活かしきれていないホームページをよく見かける。商品は、なんとかして売りたいという切なる思いがあるので、ホームページ上でも非常に充実しているが、採用活動にはまったく注力していないであろうと思われるホームページをよく見かける。いまどきの若年層は、いやパートタイマーの募集でやってくる主婦などもみな一様に、自分が就職しようかと考える企業のホームページは、チェックしているものだ。たとえば、ハローワークで仕事を探している人たちは、ずっとスマートフォンを見ている現実があることをご存知だろうか?みな、求人票が掲載されている会社をその場で、インターネット上でリサーチしているのだ。なぜなら「自分が勤めようかと考えている会社は、どんな会社だろう?」「社長は、どのような思いを持って会社経営しているのだろう?」「従業員のことを大切にしている会社だろうか?」などと当然、興味を持っているからだ。ホームページに限らず、企業としては、通常のマーケティング活動と同様、自社をうまく伝えていく努力を怠るべきではない。社会保険労務士 糀谷 博和