最重要KPI達成度100%以上は約2割、計画通りの実行が事業成功の要因に
新規事業を「成功」に導く重要な指標とはどのようなものだろうか。はじめに、新規事業における最重要KPIを聞くと、「利益」、「売上」、「新規市場・顧客の開拓」が、全体の約7割を占めた。また、これら3項目の達成度が「100%以上」と回答したのは全体の約2割であり、「69%以下」という回答は5割と半数に及んだ。また、「スケジュールの遅延」と「最重要KPI達成度」の相互性を見ると、開発が遅延した場合には最重要KPI達成度「100%以上」の割合が16%、一方で「計画通り」に完了できた場合の割合は28%と、成功度合いが高かったことがわかる。開発遅延によりサービスの提供開始に遅れが生じた事業では、事業成功度合い(最重要KPI達成度100%以上の割合)に影響が出たとも言えるだろう。
新規事業のリーダーは、専任と兼務で成功度が2倍違う結果に
続いて、「体制」の観点から、リーダーの関与度と達成度について尋ねた。「企画段階」および「立上げ準備」で、リーダーが「専任」していた場合の最重要KPI達成度100%以上の割合は、「企画段階」で44%、「立上げ準備」で42%となった。リーダーが兼務した場合は「企画段階」で22%、「立ち上げ準備」で18%となり、リーダーを専任にした時よりも低い結果に。新規事業の立ち上げには、想定外の事態も起こり得る。そのため、主体となって現場に関与し、リアルタイムに判断を下せるリーダーの存在が重要だという。また同社によると、新規事業では、事業に主体性を持ち、関与度が高いリーダーの方が、企画や準備のクオリティが高い傾向であることがわかった。さらにリーダーの関与度が高いことで、企画の付議や社内調整時の説明、質疑応答などにおける説得力が増す傾向にあるそうだ。
新規事業推進メンバー内の「専門家」の有無はKPI達成度に関係せず
次に、「体制」面で新規事業の推進メンバー内における「顧客」、「事業領域」、「技術」、「新規事業」といった領域の専門家や経験者の有無を尋ねた。すると専門家や経験者が「いた」ときの最重要KPI達成度100%の割合は、「事業領域の専門家や経験者」で16%、「技術領域の専門家や経験者」で17%にとどまった。一方、「事業領域」、「技術領域」の専門家や経験者がいない場合の達成度100%以上は、「事業領域」で25%、「技術領域」で26%となり、成功度合いが高い結果となった。専門家たちは既存の商習慣や技術、ソリューションに捉われ、新しい価値観や解釈がしづらい傾向にあるという。経験者や専門家の知見は重視しつつ、総合的に捉え、判断を下す必要があるだろう。
チームの「当事者意識」も、事業成功のカギに
チームの面ではどうだろうか。顧客の課題解決やニーズ実現への意欲や想い、覚悟などの「当事者意識」があったかについて質問したところ、チームの当事者意識が高い事業では、「社内調整がうまくいったケース」が25%、「開発が計画通りに完了したケース」が50%の結果に。当事者意識が「なかった」チームより、それぞれの割合が高いことがわかった。チームメンバーの当事者意識が低いと、受動的になりやすく、実行力やネットワーク力が不足しがちになる。一方、当事者意識が高い場合は新規事業に対して、熱量や関係者を巻き込む推進力が高いという。共創や実験・観察調査、インタビューなど顧客理解への調査の実施により、当事者意識を高めることが重要と言えるだろう。
「ターゲット顧客や、顧客の課題・ニーズ」を具体的に把握することで計画がスムーズに
次に、「プロセス」の観点から見ていくと、「ターゲット顧客や、顧客の課題・ニーズの具体性」について聞いた。「ターゲット顧客」、「顧客の課題・ニーズ」について、具体的に考えていたケースでは、半数の50%は計画通りの開発が完了し、抽象的だった場合よりも高い結果となった。ターゲットや課題・ニーズが抽象的だと、関連する社内組織とのすり合わせに時間を要し、要件の議論が進みづらいことから、計画よりも開発が長引く傾向にある。具体的なターゲットや課題ニーズを示すことで、社内関連組織や開発要件との意思決定が進めやすくなるという。
事業開始前の「営業体制・販売チャネルの整備」、「顧客サポートの整備」もポイント
また、事業提供開始前に「営業体制・販売チャネルの整備」、「顧客サポートの整備」の準備が出来ていたかを尋ねたところ、準備が出来ていた事業での最重要KPI達成度100%以上の割合は、「営業体制・販売チャンネルの整備」で23%、「顧客サポートの整備」で24%。準備が出来ていなかった事業では「営業体制・販売チャンネルの整備」で11%、「顧客サポートの整備」で15%となり、準備が出来ていた事業よりも低い傾向を示した。特に「営業体制・販売チャネルの整備」が出来ていた企業は、出来ていなかった企業より成功度が2倍以上高かったことがわかる。新規事業の現場では、製品やサービスなど「提供内容」には配慮するものの、顧客への販売段階や運用段階で必要な準備が手薄となっていたケースもあるようだ。商品やサービスのみならず、必要なタスクを全体的に捉え、タスク管理を徹底していくことが重要といえるだろう。
成功には事業開始後の事業評価が欠かせない
最後に「仕組み」の観点から分析するため、サービス提供開始後の事業評価について尋ねた。企業の仕組みとして「事業開始後の事業評価」の運用が実施されているのは24%にとどまり、運用未実施は76%に及んだ。一方、事業評価が実施されている場合は、最重要KPI達成度100%以上の割合が28%となり、運用されていないケースの19%よりも高い結果となった。新規事業では、計画と結果との乖離を修正しないまま、うやむやになってしまうケースもあるという。計画と結果の差を「学びの機会」と捉え、事業評価を徹底していくことが重要と言えるだろう。