変化に対応できる企業がアフターコロナに生き残る
今後の極めて重要なキーセンテンスとしては「経済的な不況はこれからやってくる可能性が高い」、そして「10月以降、2020年前半のような感染拡大の可能性を念頭に置く必要がある」という2点があげられよう。現在、ヒト・モノ・カネの動きが完全に止まっている状態は脱しつつあるが、「稼働再開後すぐに100%経済が回復する」という当初の想定とはまったく異なった状況にあるのが現実である。特に、地方経済がダイレクトに影響を受ける「個人消費」の回復は緩慢である。また、バブル時代の再来のようだった近年の「インバウンド消費」が新型コロナ前の状態に戻ることは難しいと思わざるを得ない。少なくとも、消費のスタイルは急激に変化しているととらえる必要がり、それなりに回復の兆しが見えるのはワクチン開発の目処がついて以降となるだろう。
このような大変革の時期には、従来の消費マーケットの回復を待つのではなく、時代の変化を先取りし、新しい消費マーケットを創り出すこと、そして自らもしなやかに変化することが求められる。「進化論」を唱えたダーウィンの「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」という言葉(ダーウィン本人の言説ではないという見方もあり真偽は諸説あるが)から連想できるように、企業も「変化に適応」できなければ命運は尽きてしまうだろう。
アフターコロナに備えて企業が取り組むべきこととは
それでは、「変化へ対応する」ために企業が取り組むべきことはなんだろうか。新型コロナウイルス感染症蔓延による休業をサポートする「雇用調整助成金」が大人気である。筆者も仕事柄、この申請サポートを数多くこなしてきたが、「従業員を休ませるだけ」という企業があまりにも多すぎる。休業にあたり、経営者から従業員に対して具体的メッセージがなんら発せられていないのである。
潜在的にはアフターコロナの経営方針をしっかり持っているのかもしれないが、はたからは、経営者の脳内は「コロナ禍が過ぎ去されば元の状態に戻る」という崩れた見通しのままで危機感がまったくもって足りていないように見えてしまう。これでは、休業する従業員も「『休暇』をもらえて『給料』までもらえるんだ」という程度で思考停止してしまう。つまり、企業がそのような状況を作ってしまっているのではないだろうか。
ある事象が起こったとき、人間は所属する集団の人数が多ければ多いほど「他の誰かが対処するだろう」と思い込んでしまう。目の前で起きた事象が「緊急事態だ」と確信できない限り、自発的に動くことはない。なぜなら、人間が持つさまざまな感情の中で、もっとも克服しづらい感情のひとつが「失敗して恥をかくことを恐れる気持ち」だからである。緊急事態において自発的に動けないのは、不親切だからではなく、不確実性がそうさせてしまうのである。
経営者がオールマイティにすべてを解決できるのであれば、従業員の力を借りる必要はない。しかし、そのような経営者はまれだろうから、経営に従業員の潜在能力も引き込まなければならない。そのためには、経営側から従業員に対し、積極的に言葉を発する必要がある。
例えば、「緊急事態なので、今後の事業計画を見直したいと思っている。休業していても、○○をキーワードにどんどんアイデアを出してくれ。みんなで具体化していこう!」といった声掛けである。それを受けとめた従業員は「今、この企業には自分の力が必要なんだ」と確信し、傍観者という態度から脱しようとしてくれるだろう。
さらに、従業員が企業からの発信を前向きに受けとめてくれるよう、経営者なりの人生哲学も語っておきたい。「本当の人生の幸福とは、さまざまな障害やトラブルを乗り越えたところにある。そして、それらの積み重ねが『生の宝物』になる。試練には果敢に挑戦しよう!」。例えば、このような内容ではどうだろうか。
大曲義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP