賃金のデジタルマネー払いを「様子見」とする企業は6割に迫る
厚労省は、「賃金のデジタル払い」を認める制度を2023年4月1日に施行した。これにより、企業は厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(電子マネーの送金サービスを提供する“○○Pay”などの事業者)の口座への給与支給が可能となった一方で、各資金移動業者はサービスの開始時期や手数料などの詳細を発表していないのが現状だ。人事担当者は具体的な検討が難しい状況の中、給与のデジタルマネー払いについて、どのように考えているのだろうか。まず三菱総研は、「賃金のデジタルマネー払いについて、現状どのように考えているか」を質問した。すると、「すでに検討している。もしくは、積極的に検討しようと考えている」が1.6%、「資金移動業者のサービス内容が具体的になったら自社や自社の社員にメリットがあるか、総合的に検討しようと考えている」が11.2%で、合計12.8%が検討中もしくは検討を予定していることがわかった。
なお、最も多かった回答は、「いまのところ検討するつもりはないが、他社や社員の声などの状況によっては、検討するかもしれない」で57.4%だった。6割近くが今後の普及状況や社員ニーズを見極めたいとの意向を示しており、「状況に応じて必要ならば検討する」という考えであるとわかった。また、29.8%は「検討するつもりはまったくない」と答えた。
給与デジタルマネー払いのメリットは「自社や従業員の金銭的な利益」
続いて同社が、「賃金のデジタルマネー払いのメリット」を尋ねたところ、「銀行への給与振込手数料が削減できる」(50%)が最多だった。以下、「社員がポイント還元を受けられる」(28.8%)、「社員がチャージを行う手間がなくなる」(26.9%)と続いた。企業では、自社や従業員にもたらされる具体的な利益をメリットと考えていることがうかがえる。また、「先端的な取り組みを行うことで企業イメージが向上する」(25.6%)、「採用の際にアピールできる」(20.5%)も2割を超え、自社のイメージやアピールにつながることをメリットと捉える企業があることもわかった。なお、「週払い・日払いなど多様な賃金支払方法に対応しやすい」(5.1%)は多項目に比べ圧倒的に少なく、人事の現場では相対的にメリットと捉えられていないことも示された。
自由回答には、「特にメリットを感じない」や「銀行口座を登録する場合は口座開設の敷居が高い」、「外国籍の従業員への支払い方法としてはメリットがある」などさまざまな声が聞かれたという。
デメリットとして「人事担当者の負担増加」を懸念か
続いて同社が、「給与デジタルマネー払いのデメリット」を尋ねると、前設問の「メリット」よりも全般的に高い数値を示した。最も多かったのは「制度や資金移動業者のサービスを理解しなければならない」(65.1%)で、以下、「賃金の支払いの事務が増える」(60.6%)、「社員からの問い合わせが増える」(50.6%)と続いた。人事の現場では、新たな運用となる給与デジタルマネー払いを導入することで事務手続きなどの負担が増すことをデメリットと考える企業が多いようだ。また、破綻時の保証が明示されていないものの、「賃金移動業者が破綻するリスク」(48.4%)をデメリットと考える企業は半数に迫った。
自由回答からは、「生活に必要な支払いが全てデジタル払いできるわけではない」や「給与2口座制の会社なら理解できるが、1口座制の会社だとローン・家賃や公共料金の引き落としもあり現実的ではない」といった、社員が銀行口座へ振り替える手間が発生することに関する意見も寄せられたとのことだ。