株式会社識学は2023年5月31日、「組織文化に関する調査」の結果を発表した。調査期間は2023年4月21日~24日で、従業員数10人以上300人以下の企業に勤める22~65歳の会社経営者・役員・部長職以上の社員1,000名より回答を得ている。これにより、企業における組織文化の傾向や、売上規模数・創業年数・従業員数との関連性が明らかとなった。
“内部志向”の日本企業…企業文化は「家族文化」と「官僚文化」が全体の4割に。従業員数や売上の向上には外部志向醸成がカギか

上場企業/上場検討企業では「マーケット文化」が高い傾向に

企業の成長過程には、「従業員数の30人・50人・100人の壁」や「売上2億円・10億円・30億円の壁」など、さまざまな壁が立ちはだかるとされている。識学では、その原因が各企業の“組織文化”にあるのではないかと考え、今回、ミシガン大学のロバート・クイン、キム・キャメロンらによって開発された「競合価値観フレームワーク」をベースとして、調査および分析を実施した。

はじめに同社が、「勤務先の企業文化」について尋ねると、家族や仲間意識の強い親密性を重んじる「家族文化」が42.7%と最も多かった。次いで、安定や統制を重視する「完了文化」が39.8%となり、内部志向の傾向が高い組織文化が多いことがうかがえる。また、変化や創造を追求する「イノベーション文化」は25.6%だった。スタートアップに代表されるような文化ではあるものの、まだ日本国内では少数派なのが現状のようだ。

さらに、会社の上場区分別で結果を比較すると、上場企業では目標達成や市場での競争に勝ち上がる「マーケット文化」が48.9%と、最も高い傾向になった。また上場を検討している企業では「家族文化」(46.4%)、「官僚文化」(49.3%)、「マーケット文化」(47.8%)がいずれも半数弱であることがわかった。

同社は、「上場を準備するにあたり、内部統制を進める必要があることや高い成長性を求められることで、組織文化が急速に変化して混在していることが予想される」とした上で、「企業の成長のためには、マーケット文化をいかに社内に醸成させるかがカギになる」との見解を示している。
企業文化(上場区分別)

「売上規模10億円」を境に企業文化が大きな差が生じる

次に同社は、企業文化について、「売上規模別の特徴」を把握するためにコレスポンデンス分析(※)を行った。その結果、「売上規模10億円」を境に上下に大きく分かれることがわかった。

上方向では、「組織を束ねているのは、ゴールや目標の達成である」や「組織構造化され、よく管理されており、規定された形式的な手続きに則って行われることが多い」といった、「官僚文化」や「マーケット文化」の特徴がみられた。一方、下方向では「非常に人間的なつながりを大切にし、家族的であり、同じ価値観・考えを共有している」といった「家族文化」の特徴が強いことがわかった。

※コレスポンデンス分析:集計表の形から複数の要素の類似度や関係の深さを調べることに長けた分析手法。近くにプロットされているマーカーほど類似性・関連性が高いことを示している
企業文化と売上規模(コレスポンデンス分析)

創業時は外部志向だった文化が、年数を経て「家族文化」に変化か

続いて同社は、企業文化について「創業年数での特徴」を把握するべくコレスポンデンス分析を行った。創業年数が5年未満の企業では、新しいことへの挑戦やライバルとの競争といった、「イノベーション文化」や「マーケット文化」の特徴がみられた。

対して、5~10年未満、10~15年未満の企業では、「家族文化」の特徴が強くなる傾向が明らかとなった。これについて同社は、「年数が経つにつれて、経営基盤が安定してくることによって、『家族文化』が醸成されてくるのではないか」との見解を示している。
企業文化と創業年数(コレスポンデンス分析)

業務や風土の変化は「従業員数100人」を境界線として特徴が異なる

次に同社は、「業務の進め方や風土」を尋ね、従業員規模別に集計した。すると、従業員数100人を境として回答の傾向に大きく差がみられた。従業員数100人以上の企業では「組織から与えられた役割の遂行」(45.9%)や「ルールに従った判断を重視」(31.5%)、「集団で協力して成果をあげる」(30.6%)といった進め方・風土が求められていることがわかった。同社は、「この傾向は上場でも同様の傾向がみられており、大きな成果を出すためには集団での成果を意識する必要がありそうだ」とコメントしている。

一方、「仕事の成果が見えやすい」については、従業員数が10~30人の企業で49.1%と最も高く、従業員数が増えるにつれて減少傾向にあることが判明した。これを受けて同社は、「従業員数が少ない企業では個人の技術であるテクニカルスキルがそのまま成果となっており、従業員数が増えた企業では、分業を行うことで全体の仕事の成果を個々人が認識しづらいのではないか」との見解を示している。
業務や風土の特徴(従業員規模別)

「30人未満」と「30人以上」で上下関係に変化。“壁”を越えるには組織体制が重要か

最後に同社は、業務や風土の特徴について「従業員数別」のコレスポンデンス分析を行った。その結果、10~30人の企業では「自分のペースで進められる」や「上下関係は気にならない」、「個人の役割や責任が明確」、「個人の主体的な判断を重視する」という特徴があった。これに対し、10人以上の企業では、「計画にそった確実な遂行」や「集団で協力して成果をあげる」、「ルールに従った判断を重視する」などといった特徴があり、大きな違いがみられた。

また、「10~30人以上」と「30~50人」では上下方向に大きく分布されたことから、同社は「上下関係の明確さ」に違いがあると推測し、「企業成長における30人の壁は、『上下関係がある組織体制の構築の不備』ではないか」との見解を示している。
業務や風土の特徴と従業員数(コレスポンデンス分析)
本調査結果から、企業全体の組織文化は、「家族文化」や「官僚文化」が4割程度を占め、内部志向の傾向が強いことがわかった。また、売上規模や創業年数、従業員数によっても企業文化の特徴が異なることが明らかとなった。企業のさらなる成長を目指す企業では、こうした企業文化の傾向と自社の特徴を照らし合わせ、今後醸成していきたい文化の方向性を定めてみてはいかがだろうか。

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