このように社会人経験のある中途採用者を指導する際は、彼らの心理状態の特徴を理解することが大切である。「年上の部下」にとり“年下の上司・先輩”から教えを受けるというのは、あまり気持ちの良いものではないからである。
「心を新たにして取り組まなければいけない」と理屈では分かっていても、自身の経験に照らして「そんなことくらい分かっている!」などの気持ちが先に立ってしまいがちなのが「年上の部下」である。「自分を小さく見られたくない」「バカにされたくない」「仕事ができると思われたい」などの思いを強くもっている「年上の部下」も少なくない。
根底には「年上の部下」には、「自分と自分の経験に敬意を払って欲しい」という気持ちがある。まずは、「年上の部下」の心理状態には、このような傾向があることを理解することが必要だ。
そのうえで、「年上の部下」に指示を素直に聞いてもらうためには、常日頃のコミュニケーションのとり方に注意が必要となる。「年上の部下」が素直に指示に従うかどうかは、日常のコミュニケーションが円滑にとれているかに左右されることが多いからである。
“年下の上司・先輩”の中には「自分のほうが先輩である」「相手になめられたくない」などの思いから、「年上の部下」に次のような態度をとるケースがある。
・偉そうにふるまう
・見下したような態度をとる
・命令口調で話す
・友達言葉(いわゆる“ため口”)になる
・横柄になる
“年下の上司・先輩”のそのような対応を「年上の部下」が快く思うことは、決してない。
確かに、「年上の部下」は社内では部下である。しかしながら、「社会人の先輩」であることには変わりがない。担当業務に関しては“年下の上司・先輩”のほうが詳しくても、その他のことでは、「年上の部下」から学ぶことも少なくないはずである。
したがって、日々のコミュニケーションの際には、とりわけ「挨拶」「言葉遣い」「礼儀」などの基本的なビジネスマナー面で、相手が自分よりも年長者であることに配慮した対応をとることがポイントになる。
そのような配慮をしていることは、「年上の部下」にもしっかりと伝わるものである。常日頃から相手を「社会人の先輩」として正しいマナーで接していれば、「年上の部下」は“年下の上司・先輩”の立場を理解し、素直に指示を聞き入れるケースが多くなる。反対に、普段の対応がぞんざいであると、“年下の上司・先輩”の指示に対して、思わぬ反論をはじめることも少なくない。
普段から自分よりも年長者に対するコミュニケーションが適切にとれ、好ましい人間関係が構築できていれば、「年上の部下」は困ったときにしっかりと助け舟を出してくれる心強い存在になるものである。
コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)