自律的なキャリア形成の「社会的な意味」と「自身が重要視すること」の認識には乖離が
ジョブ型人事制度やコロナ禍以降の社会環境の変化により、「働き方」や「キャリア自律」への関心がますます高まっている。では、ビジネスパーソン自身は「自律的・主体的なキャリア形成」(以下、「自律的なキャリア形成」と表記)について、どのような意識を持っているのだろうか。調査では、最初に「自律的なキャリア形成とはどのような事を指すと思うか(社会的な意味)」を尋ねている。最も多く回答が集まった項目は、「『自分のキャリアの責任は自分にある』と考えること」で64.6%となり、次点は「自分の価値観に基づいて、自分でキャリアを選択すること」が61.3%だった。一方で、最下位は、「会社に頼らないで、自分の力でキャリアを切り拓いていくこと」の38%で、次に「1つの職業や会社にとらわれずに、臨機応変にキャリアを形成すること」の40.1%が続いた。
同社が回答傾向を分析したところ、「自分に合った働き方を主体的に選択すること」は、20代後半に比べ30代前半での選択率が高く、「社外でも通用する専門性を身につけること」、「新しい経験にチャレンジしながら、自ら成長機会を作っていくこと」は、専門知識や技術の更新スピードが速い職種のグループでの選択率が高い傾向があったという。自律的なキャリア形成における優先順位は、ライフステージや職務特性によっても異なってくるようだ。
6割以上が「自律的なキャリア形成」に関する会社からの期待を感じている
続いて、「勤務先の会社は、従業員の自律的なキャリア形成を期待するメッセージを出しているか」について聞いた結果では、「強く期待するメッセージが、経営者やマネジメント層から出されている」が10.1%、「ある程度出されている」が27.6%、「具体的なメッセージはないが、期待を感じる」が28.4%となっていた。「期待あり」という結果を合計すると66.1%となり、6割以上が会社からの期待を感じていることが明らかとなった。先述の「(自律的なキャリア形成で)自身が重要だと思うこと」の回答結果と比較して見ると、「会社からの期待」において相対的に多く選ばれていた項目は「何事も成長機会と捉え、目の前の仕事に主体的に取り組むこと」、「新しい経験にチャレンジしながら、自ら成長機会を作っていくこと」だった。一方で、「自身が重要だと思うこと」の方が相対的に多く選択されていたのは「自分に合った働き方を主体的に選択すること」だった。
同社によると、この回答傾向は「生活全般における長期的なライフキャリアという視点」が、近年重視されている流れと合致しているという。
キャリア自律に「ストレスや息苦しさ」を感じる人も6割強
次に、「自律的なキャリア形成についての考え」を、幾つかの項目に対して「どの程度あてはまるか」を尋ねた結果を紹介する。「あてはまる」が最も多かったのは、「これからは多くの人に『自律的・主体的なキャリア形成』が求められる」という項目で、「とてもそう思う」(10.9%)、「そう思う」(31.8%)、「ややそう思う」(41.6%)の合計が84.3%となった。次点以降は、「自分自身は『自律的なキャリア形成』をしたい」が合計81.8%、「『自律的なキャリア形成』を支援してくれる会社の方が、働きがいがある」が合計76.2%となった。
これらの前向きな意見がある一方で、「多くの人にとって『自律的・主体的なキャリア形成』は難しい」(合計76.3%)、「『自律的・主体的なキャリア形成』を求められることに、ストレスや息苦しさを感じる」(合計64.8%)などの項目も、「あてはまる」の回答が多くなった。自律的なキャリア形成について、ポジティブに捉えている個人が多い一方で、中には「息苦しさや難しさ」を感じる人も一定数いることが判明した。
キャリア形成に役立っているものは、「学習支援」と「学びのための柔軟な勤務体系」
最後に、自律的なキャリア形成を支援する仕組みについて「所属する企業で導入されているもの」と「自身に役立っているもの」について尋ねている。その結果、相対的にどちらの項目も多かったのは「資格取得の金銭的補助」で、「現在導入されている」が54.8%、「役立っている」が50.3%となった。2位は、「必要なときに、必要な知識およびスキルを学べる機会や仕組み」で「現在導入されている:46.7%/役立っている:44.8%」となった。一方で、「導入率が低いが、役立っている」となったのは「学びの時間をとれるような柔軟な勤務体系(フレックス、テレワークなど)」で、「現在導入されている:25.8%/役立っている:57%」となった。このように、日々の仕事を通じたキャリア形成に必要な「学習支援」や、その時間を作るための「柔軟な勤務体系」といった、学びに関する会社からの支援が実際に役立っていることがうかがえる。一方で、「異動の意図の説明」や「人事評価制度のフィードバック」など、直接的なキャリア支援に関する仕組みや制度への役立ち感は相対的に低い傾向にある。