脳の働きと行動の関係は、ある法則に基づいている。何かの体験をすると、その経験がきかっけとなり、人は感情を持ち、その感情で判断し、次の行動の動機付けをする。この一連の反応をマインドセットという。
数年前から、ラーニングの世界にも神経科学(ニューロサイエンス)の分野が着目されるようになった。そのため、フィードバックや対応方法で、マインドセットがどのように働くのか、どのような手法が有効なのか、科学的に分析が進み判るようになってきた。
神経科学の専門家である、デビッド・ロック(ニューロリーダーシップ・インスティチュートCEO)は、今まで、上司が当たり前のようにやってきた、評価や改善のためのフィードバックは、言い方次第では、人のマインドセットを悪い方向に導くと言っている。
つまり、上司が善かれと思っていて、部下に投げかける言葉が、上司の想定と異なった反応や行動をしてしまうことがあることがあると言う。
例えば、上司がある困難な目標を努力した上で達成した部下と面談した際、どのようにフィードバックするかどうかによって、部下のその後の行動に大きな差がでる。
この部下がある目標を達成するため、非常に努力した結果、達成したとする。この時、上司が、「よく達成した、素晴らしい! これからも頑張ってくれ」と褒めたとする。この言葉を聞いた部下の脳は次のように判断する。「もう、達成できたので、これで終わりだ。これ以上頑張る必要はない」つまり、これからの行動を抑制するように、脳が体に命令することが判ってきた。
それでは、どのように言えば良いのだろうか。もう一つの言い方はこうだ。「よく達成した、素晴らしい。この努力を続ければ、さらに大きな成果に結びつくと思う。これから頑張ってくれ。」この言葉を聞いた部下の脳は次のように判断する。「今まで苦労して頑張ったことが評価された。ということは、これからも頑張れば良い評価が得られるはずだ」従って、部下は、次の目標に向かって頑張るという思考になるという。
この思考をグロースマインドセットという。前者のように、行動や考え方の広がりを押さえる思考をフィックスマインドセットという。
このように、部下の投げかける言葉によって、フィックスマインドセットのクセをつけてしまうのか、グロースマインドセットのクセをつけるのか分かれる。上司が、このようなことを意識することで、部下にマインドセットを、自ら成長させる思考になるように支援できれば良いと考える。
HR総研 客員研究員 下山博志
(株式会社人財ラボ 代表取締役社長/ASTDグローバルネットワーク・ジャパン副会長)