共働きの「ワーク・ライフ・バランス」は夫婦間のコミュニケーションによるアイデンティティ確立が必要
このような「個人的意思=アイデンティティ」は、客観的に評価のしようがない。あくまで、その夫婦・家族の生き方の問題であり、そこに他人が口を挟む余地はない。とはいえ、アイデンティティの確立に必要不可欠なのは夫婦間における、相手を理解しようとする「コミュニケーション」であることは肝に銘じておかなければならない。前編(※)で「個々人に確固としたアイデンティティが感じられないのはなぜか」と疑問を呈したが、夫婦間のコミュニケーション不足あるいは内容の希薄さが一因のような気もする。それに、誤解された「ワーク・ライフ・バランス」を被せてしまっているからなおさらだ。今回のコロナ禍は、共働きが当たり前の現代社会において、「なんのために共働きをしているのか」や「夫婦間の人生の共有価値はなんなのか」、そして「本当にリスペクト・支え合う関係が構築されているか」を考えるよい機会になったのではないだろうか。
「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は、いかにも理念先行の仮想現実を連想させる。しかし、本来はもっと現実的な問題のはずである。夫婦がアイデンティティを確立するためには、よりブレイクダウンした問題から出発した方がよいだろう。
具体的には、キャリアへの意向をどう持つか、老後を含めた人生の価値をどう捉えるか、教育・子育てのあり方、経済生活をどう安定させるか、親その他の老後ケアの必要性があるか、趣味・嗜好の力点をどこにおくか、などである。これらの事項について、夫婦間でコミュニケーションをとり、いかなる共働きの手法に結びつけていくかが重要だ。その結果が「アイデンティティ」なのである。
※ 新型コロナがあぶり出した「ワーク・ライフ・バランス」【前編】
「ワーク・ライフ・バランス」で得た「余裕」や「ゆとり」は仕事や家事に還元するためにある
では、個人単位で見たとき、どのような「アイデンティティ」があり得るのか。(1)仕事重視型
(2)家庭重視型
(3)仕事&家庭重視型
(1)は文字どおりキャリアアップを目指すタイプである。仕事優先主義といってもよい。高学歴で、一定のスキルレベルにある人に多く見られる。
(2)は私生活を最優先するタイプである。仕事はほどほどに、一定の収入が安定的に入ることが目標となる。
(3)は、(1)(2)ともに重視したいというタイプである。最近では、このタイプを目指す人が多いかもしれない。
これら、個人単位の「アイデンティティ」を夫婦での組み合わせで整理すると、基本的には次の6分類となる(夫婦おのおのに選択肢があるので、最終的には9分類となる)。
(a)仕事重視型×仕事重視型
(b)仕事重視型×家庭重視型
(c)仕事重視型×仕事&家庭重視型
(d)家庭重視型×家庭重視型
(e)家庭重視型×仕事&家庭重視型
(f)仕事&家庭重視型×仕事&家庭重視型
「ワーク・ライフ・バランス」を前提に考えると、(a)や(c)は家計的には余裕がある一方、世帯ではマイナス面も多くなる。家事のアウトソースや機器の調達、子育て経費、外食などの費用の増加、家事・教育が時間的制約で疎かになりがちでもある。
(d)は家計の維持が難しくなる可能性が高く、一般的ではないだろう。
以上の折衷タイプが(e)や(f)になる。最近は、(f)を志向する夫婦が多くなっているともいわれている。言葉の響きはよいのだが、誤解を恐れずに言えば「欲張りタイプ」であるだけに、(a)や(c)のタイプのような割り切りもできないだろう。従って、現実的には最も「ワーク・ライフ・バランス」が難しいかもしれない。
最後に、改めて「ワーク・ライフ・バランス」=「仕事と家事・育児の両立」ではないことを力説しておきたい。仕事・家事・育児の生産性を高め、「自由でゆとりのある生活時間」を増やし、そこでできた「余裕」や「ゆとり」を仕事や家庭にフィードバックすることこそが本質である。この本質を見失わないようにしなければならない。
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP