職場の衛生体制の強い味方である「労働衛生コンサルタント」は、由緒ある国家資格ですが、あまり知られていないというのが現状です。今回は「労働衛生コンサルタント」について解説します。上手に利用して、よりよい職場を目指しましょう。
「労働衛生コンサルタント」とはどんな職業なのか

50年以上の歴史を持つ労働衛生コンサルタント

皆様は労働衛生コンサルタントという資格をご存じでしょうか。1967年に労働基準法から労働安全衛生法が分離独立した時にできた、由緒ある国家資格となり、「労働者の衛生の水準の向上を図るため、事業場の衛生についての診断及びこれに基づく指導」を業とする仕事です。事業場の安全に対する対策を主とする「労働安全コンサルタント」とは近しい関係にあり、一緒に「日本労働安全衛生コンサルタント会」という一般社団法人を作っています。

従来の日本では安全対策において改善点があまりにも大きかったため、どちらかというと安全コンサルタントのほうに重きが置かれていました。実際1967年以来の変化を見ると、労働災害による死者は年間6,000人以上から現在の1,000人以下まで格段に下がっています。

ただその裏では衛生の部分がおろそかになっていました。1980年代以降の高血圧・高脂血症・糖尿病等の蔓延、2000年ころからのメンタル疾患の急増に伴い、衛生・健康面の問題が企業の、そして企業労働者にとっての重大課題になりました。特にメンタル疾患で休職者が一人出た場合、その方の年収の3倍のコストが企業にかかるという試算もあります。さらには自殺者等が発生し社会的問題に発展した場合、会社の存続にもかかわる事態になりかねません。このような課題の解決の一助として、「労働衛生コンサルタント」が大いに役に立ちます。

産業医がいるのになぜ「労働衛生コンサルタント」も必要なのか?

従来、衛生面をケアするのは企業内の衛生管理者や衛生部門の役割でした。さらに産業医がいて、それらを統括している図式の会社が多いと思います。

ところがこの産業医について個人差があまりにも大きいのです。普通の「お医者さん」は医業のトレーニングを受けないとなれませんが、ほとんどの産業医は産業医としての十分なトレーニングを受けていません。近所のクリニックの開業医さんに産業医をお願いする事業場も多いと思いますが、その場合も産業医としてのトレーニングを受けている開業医は少数です。

私はこれまで、産業医として、また労働衛生コンサルタントとして、中小企業を中心に百近い職場を見てきました。その中で、きちんとした産業保健体制ができていないことを知りびっくりすることが少なからずあります。例えば法定の定期健康診断すら全員に受けさせていない、インフルエンザで40度の熱が出ていても、無理矢理出社させるなどなど。実際多少の無理をしないことには会社が回らないのもよくわかります。しかし少なくとも産業医はそこに適切な助言をすべきです。それができない産業医が多いというのが現状です。

つまり、職場の衛生体制を“統括” する産業医の資質・能力・実際の助言・施策を、監査する者が必要なのです。これこそが労働衛生コンサルタントです。労働衛生コンサルタントは実際に現場に足を運び、産業医を含むキーパーソンとも面談し、労働衛生体制の評価ならびに良い点や改善点を指摘してくれる、そんな存在なのです。


神田橋宏治
合同会社DB-SeeD
日本医師会認定産業医 労働衛生コンサルタント
https://industrial.doctor.tokyo.jp/

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