2060年には総人口の約半分が65歳以上の高齢者になる
日本の高齢化はとどまるところを知らず、15~64歳の人口はどんどん減少している一方で、65歳以上の高齢者数は、2030年には総人口の約3人に1人になると見込まれています。さらに、2060年には総人口の半分にまでのぼるだろうといわれています。状況を重くみた政府は、「70歳までの就業機会の確保」について検討を始めています。このような状態ですから、今後、若者を雇用することは、数から考えてもかなり厳しくなっていくといわざるをえません。しかし、いまの60歳以上の方々は若者よりも元気で、その多くが労働意欲も旺盛です。また、2025年には厚生年金の報酬比例部分の支給年齢が完全に65歳以降になることにともない、「継続雇用」も同年に完全義務化されます。
「継続雇用」とは、たとえば60歳でいったん定年退職してもらった後に再雇用し、65歳まで働いてもらう方法と、定年で退職とせずに引き続き雇用を続ける方法があります。さらに定年年齢を65歳まで引き上げる方法を含めて、現在の制度では、いずれかの方法によって希望者は65歳まで雇用することが義務付けられています。つまり、高年齢者にできるだけ長く働いてもらおう、という政府の意図があるのです。
これにともない、政府は高年齢者に長く働いてもらうよう取り組む予定の企業に対して、「助成金」の支給制度も用意しています。従業員の採用について、若者だけでなく高年齢者も視野に入れていくことで、手不足を解消しながら助成金を業務に役立てることもできます。ぜひご検討いただきたいと思います。
高年齢者の雇用に特化した助成金とは
それでは、どのような助成金があるのかをみていきましょう。(1)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難コース)
企業が、高年齢者や障がい者、母子家庭の母親などを雇用した時に支給される助成金です。今回は高年齢者の方の場合を取り上げます。ここでいう高年齢者とは、「60歳以上65歳未満」の方を指します。
高年齢者をハローワークの紹介といった方法によって、雇用保険の一般被保険者として雇うことが条件になります。支給額は、中小企業の場合、半年ごとに30万円、年間で合計60万円を受給することになります。短時間労働者(週の所定労働時間が20〜30時間未満)の場合は、20万円×2回で、計40万円が支給されます。
(2)特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
先の「特定就職困難コース」が60〜65歳未満の方が対象だったのに対し、生涯現役コースは、「雇用した当日の年齢が満65歳以上」の方が対象になります。こちらもハローワークの紹介といった方法により、雇用保険の高年齢被保険者として雇うことが条件になります。支給額は、中小企業の場合、半年ごとに35万円、年間で合計70万円となります。短時間労働者(週の所定労働時間が20〜30時間未満)の場合は、25万円×2回の計50万円が支給されます。
「半年ごとに助成金が支給される」ということは、1年以内に助成金の対象者が退職した場合、助成金を満額受け取ることはできません。これは、特定就職困難コースも同様です。
(3)65歳超雇用推進助成金
会社の制度を一定の条件に引き上げた場合に支給される助成金です。たとえば、「定年を65歳以上に引き上げる」、「定年制度をなくす」、「希望者全員を66歳以上まで雇用する制度を導入する」といった制度を設けると助成金の対象になるわけです。他に、「50歳以上かつ定年を迎えていない有機契約労働者の方を無期雇用に転換した」といった場合に助成される「高年齢者無期雇用転換コース」という助成金も同様に、会社の制度に対して支給されるものです。
支給額は、たとえば66歳以上に定年年齢を引き上げると、最大で160万円が支給されます。これは定年年齢の引き上げ幅や60歳以上の雇用保険の被保険者の数がどれだけいるかで額が変わります。定年制度をなくした場合にも、最大160万円が支給されます。こちらも、60歳以上の雇用保険の被保険者数に応じて支給額が決定されます。
このように、高年齢の対象者を雇用したり、会社の制度を引き上げたりした場合に支給される助成金はたくさんありますので、ぜひご検討ください。
ただし、助成金の申請はかなり複雑です。就業規則の作成・変更も必要になりますし、申請に必要な賃金台帳や出勤簿など、申請書以外に提出する書類もたくさんあります。会社自身で申請することはできますが、労働局から審査時に問い合わせや追加書類の提出依頼がくるなど、受給にいたるまでには手間と時間がかかります。どのような助成金が会社の状況とマッチしているか精査することも含めて、社会保険労務士に相談なさることをおすすめします。
山口善広
ひろたの杜 労務オフィス
社会保険労務士