「サイレントお祈りされたのかな?(泣)」
「サイレントお祈り許さん」
「サイレントお祈りの文化消滅して欲しい」など
(ツイッター上のつぶやきより)

「サイレントお祈り」という言葉をご存じだろうか。これは“不採用の連絡がないこと”を指す言葉で、不採用通知の文末に「ますますのご活躍をお祈りいたします」といった「お祈りメール」が書かれることからそのように名付けられたようである。就活生を中心に、この「サイレントお祈り」に対する批判の声が上がっている。また、最近はその「お祈りメール」さえ出さない企業が増えている。就活生に限らず、相手から連絡がないことは人の心に大きな不安感や不信感を与えるものだろう。実は実際に起きている労務トラブルの原因には、この「サイレントお祈り」に似た数々の“サイレント○○”に起因するものが多い。そのような問題を未然に防ぐためにも、企業として最低限注意すべき周知義務をまとめてみた。
サイレント○○にご用心!?~最低限押さえておきたい周知義務~

あなたの企業は“サイレント〇〇”になっていないか?

(1)サイレント就業規則
 就業規則には周知義務がある(労基法106条)。そして周知をすることで効果が発生する(労働契約法7条など)。周知の方法は下記のように定められている。(労基法施行規則52条の2)

一:事業場の見やすい場所に掲示、備え付ける
二:書面を労働者に交付する
三:磁気ディスク、磁気テープなどに記録し、各事業場に労働者が確認できる機器を設置する

職場のルールを労使双方で理解しあうことは、労務トラブル予防の第一歩だ。あなたの職場はサイレント就業規則になっていないだろうか。

(2)サイレント36協定
36協定にも周知義務がある(労基法106条)。周知の方法は前述と同様だ。働き方改革関連法の施行により、長時間労働の削減は大きなテーマとなっている。届出だけでなく、周知についても忘れずにしておきたい。

(3)サイレント育児介護休業
事業主は、労働者(または配偶者)の妊娠、出産または労働者が家族の介護をしていることを知ったとき、育児・介護休業などの制度を周知するよう努めなければならない(育児介護休業法21条)。育児・介護休業制度を知りながら、労働者がそのことを言い出しにくく断念するケースも多いと聞く。企業側が制度について積極的に周知をして、休業しやすい雰囲気を作ることが求められている。働き方改革対応、人材確保の観点からも今後ますます注目される周知義務である。

(4)サイレント最低賃金
最低賃金にも周知義務がある。企業は次の項目を周知しなければならない。(最低賃金法8条、同法施行規則6条)

一:最低賃金の適用を受ける労働者の範囲、これらの労働者に係る最低賃金額
二:算入しない賃金
三:効力発生日

2019年10月に地域別の最低賃金額が改定されたばかりであるが、例えば東京都と神奈川県などはもはや時給1,000円でも最低賃金違反となった。しかしながら、以前のまま時給1,000円で人員を募集している企業もあると聞く。最低賃金を知らず知らずのうちに下回っていないか、こまめにチェックしておきたい。特に月給者の時間単価は要注意である。

(5)サイレントパワハラ対策
 2019年6月に労働施策総合推進法が改正され、企業にパワハラ防止の措置義務が課せられることになった。具体的にどのような措置をとるのかは今後指針として示されることになっているが、「事業主によるパワハラ防止の社内方針の明確化と“周知”・啓発」がその中に含まれる見通しだ。今後行政から発表される内容にしっかりとアンテナを張っておきたい。

以上紹介した他にも、「年休日数関連」や「無期転換申込関連」などは法令による周知義務までは無いものの、周知の出来不出来が職場のトラブル予防に大きく影響する項目であるため、しっかりと対策を講じておきたい。このとき大切なのは相手(この場合は労働者)の立場に立って親身になって考える、という姿勢である。「言葉は心の使い」という言葉もある。真に相手のことを思えばこそ、“周知”といった言葉も出てくるものだろう。一方的に知らせるだけではかえって状況を悪くしかねない。適切な周知を行うことで良好な職場内の人間関係を築き、士気を高め、事業の成長に繋げていきたいものである。

出岡社会保険労務士事務所 出岡健太郎

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