台風で従業員が出勤できなかった日の賃金を支払う必要があるか

一方で、台風でも営業をしたが、交通機関の運休により出勤ができなかった従業員がいる、というケースもある。これについては、本Q&Aに次のような項目がある。

今回の台風の被害により労働者が出勤できなかった場合、出勤しなかった日の賃金の支払は必要でしょうか。

台風19号の影響で、交通機関の計画運休などにより欠勤をしたとしても、従業員側に欠勤の責任があるわけではない。しかしながら、従業員は「働くという“義務”」を果たして、初めて「賃金を請求するという法律上の“権利”」を得ることになる。欠勤の理由が台風の影響によるものであったとしても、従業員側が「働くという“義務”」を果していないことには変わりがない。

従って、時給制、日給制、欠勤控除のある月給制などで雇用している従業員の場合には、就業規則などに特別な取り決めがない限り、働けなかった分の賃金は支払い対象にならないことになる。

そのため、本Q&Aにも賃金の支払い義務は記載されておらず、「労働契約や労働協約、就業規則等に労働者が出勤できなかった場合の賃金の支払について定めがある場合は、それに従う必要があります」とだけ回答している。

ただし、その回答は、次のように締めくくられている。

「労働者の賃金の取扱いについては、労使で十分に話し合っていただき、労働者の不利益をできる限り回避するように努力することが大切です」

つまり、法律上の賃金支払い義務はないとしても、労働者の不利益を可能な限り回避するよう、企業側に努力することを求めているのである。

最後にひとつ、重要な考え方を紹介しよう。それは、「法律上、問題のない手法」が「企業経営上、最良な選択肢」であるとは限らない、ということである。

例えば、活性化された好ましい職場を作るためには、法律上は支払い義務のない賃金であったとしても、従業員に配慮して“あえて支払う”という選択肢もあることを忘れてはならない。

そのように、時に企業経営においては、法律上だけでなく「倫理上、どうすべきか」という視点で意思決定をすることが求められる。

>>参考:厚生労働省「令和元年台風第19号による被害に伴う労働基準法・労働契約法に関するQ&A」


大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)
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