「この資料をブラッシュアップしてくれないか」、「先日の企画をブラッシュアップしてほしい」などと、ビジネスシーンでは「ブラッシュアップ」という言葉をたびたび耳にする。ただ、その意味や使い方を正しく理解しているだろうか。本稿では「ブラッシュアップ」について、意味やメリット、言い換え表現、注意点、手順などを取り上げて解説していく。
ブラッシュアップ

「ブラッシュアップ」とは?

「ブラッシュアップ」とは、「より磨きをかける」、「より良くする」、「現状より改善させる」という意味を持つ。ビジネスシーンでは、企画書やプレゼン資料、知識、技術、スキルなどを練り直し、完成度を高めるといった意味合いで用いられる。常に改善と進化が問われるのが、ビジネスの世界。持続的な成長と競争力を維持するためにも「ブラッシュアップ」は重要な要素となる。

「ブラッシュアップ」の言い換え・類語

「ブラッシュアップ」には幾つか類語がある。ここで整理しておこう。

具体的には、「ブラッシュアップ」の類語として、「練る」、「練り上げる」、「磨きをかける」、「練磨する」、「洗練する」、「スキルアップ」、「改善する」、「更新する」などを挙げられる。いずれも、今以上のクオリティにすることを意味する。

このうち、「練り上げる」は物事を推敲(すいこう)しながら仕上げていく意味合いを持つので、「ブラッシュアップ」の言い換え表現としても使える。また「スキルアップ」は、身に付けた能力を向上させることを意味する。「ブラッシュアップ」にも能力を高める意味合いがあるが、その対象はアイデアや仕事の内容、制作物などかなり幅広いと言える。

ビジネスでの「ブラッシュアップ」の使い方

ビジネスの場面で「ブラッシュアップ」をどう使うかを説明したい。例えば、以下のように用いる。

「このプロジェクトの企画をブラッシュアップする必要がある」
「役員に提出する報告書をブラッシュアップしたい」
「業務で必要な知識をよりブラッシュアップするための研修を受ける」
「海外出張に備え、英語力をブラッシュアップしたい」
「先方に提案する前に、企画内容をブラッシュアップする必要がある」

「ブラッシュアップ」のメリット

次に、「ブラッシュアップ」のメリットを取り上げたい。

●成果が出やすい

「ブラッシュアップ」することで、完成度や質が今よりも高くなる。例えば、プレゼン資料に単に「顧客満足度を向上させる」と表現していたものを、「ブラッシュアップ」して「接客対応の平均評価を現状の3.8点から4.2点に引き上げ、リピート率を15%から25%に改善する」と具体性のある計画に落とし込んでいく。これにより行動がより具体的になり、成果が出やすくなる。

●具体的な糸口が見えやすくなる

「ブラッシュアップ」の目的は、多くの情報や企画の中から、より具体的なものへと進化させ、完成度を上げていくことにある。時には、良いアイデアが出なくて行き詰まってしまうこともあるかもしれないが、情報を更新して視点や発想を変えることで具体的な糸口が見えやすくなってくる。

●満足度が向上する

「ブラッシュアップ」することで、より完成度の高いものができあがると満足感を得られる。それが、モチベーションの維持や向上にもつながってくる。

●完成度が高まる

幾度も「ブラッシュアップ」を行い、改善・改良を加えていけば、自ずと完成度を高めることができる。最初の段階では、思いつかなかった新しいアイデアや発想も生まれやすい。「ブラッシュアップ」をすることで、企画案のレベルをアップできるはずだ。

●業務効率化につながる

「ブラッシュアップ」の対象となるのは、未完成段階のものや完成度をもっと高めたいものだ。すなわち、何らかの課題や修正すべき点があることになる。それを「ブラッシュアップ」する際には、問題がどこにあるのか、何を修正すれば良いのかを特定しなければいけない。それを行うことで、無駄が減り、業務効率を向上させることができる。

●評価されやすくなる

「ブラッシュアップ」することで、クオリティが高まれば周囲から評価されやすくなる。例えば、取引先に提案する資料に文字情報が多すぎる場合、より視覚的にわかりやすいものに「ブラッシュアップ」すれば、交渉も進みやすくなる。

「ブラッシュアップ」のデメリットや注意点

実は、「ブラッシュアップ」はメリットだけではない。デメリットもあるし、注意すべき点もある。それらを説明しよう。

●課題の明確化と方針の共有が必要

「ブラッシュアップ」を行う上で重要なのは、課題の明確化と方針の共有だ。課題が不明確であると「ブラッシュアップ」の目的自体も意味のないものとなってしまう。逆に、課題が明らかであればあるほど、改善点や対策が見えてきやすい。それだけに、質の高いものに仕上げていける。

●否定・批判されたという誤解につながる

自分が何日も掛けて作り上げた資料に対して、「もっとブラッシュアップしてほしい」と上司から言われたら、悔しい気持ちになるのは自然なことであろう。「否定・批判されたのではないか」と思ってしまうものだ。ただ、そうした感情的な誤解が生じても、現状をより良くするための指摘であることを忘れないようにしたい。

●英語の「brush up」とはニュアンスが異なる

実は、日本語の「ブラッシュアップ」と英語の「brush up」では意味が異なってくる。前者は、より良く仕上げる、向上させるなどの意味合いが強い。一方、後者は忘れかけているスキルやさび付いてしまった能力を磨き直すという意味になる。日本語で言う「ブラッシュアップ」に近いニュアンスを表現したい場合には、むしろ「refine」(~を洗練する、向上させる)、「touch up」(修正を加えてより良くする、仕上げる)、「make~better」(改善する、より良くする)を使うようにしたい。

●時間や人的なリソースがかかる

「ブラッシュアップ」には時間も労力も掛かる。しかも、日々の業務と並行して行わないといけない。この場合、小規模企業やスタートアップでは、リソースの割り当てができない可能性がある。また、新しいスキルや技術を習得するとなると、トレーニングが欠かせない。それによって、何かプロジェクトを進行していた場合に遅延をもたらす可能性がある。

●変化に抵抗感を示す人もいる

基本的に、人間は変化を拒む傾向がある。なので、従業員であったとしても、新しい方法や技術に適応できない人も出てくる。特に長年慣れ親しんできた作業方法であったりすると、学ぶ直すことにストレスを感じる可能性もあり得る。

「ブラッシュアップ」の手順

「ブラッシュアップ」の手順、やり方についても押さえておこう。

(1)目的と対象の見直し

「ブラッシュアップ」を行うにあたっては、目的と対象となる素材を決める必要がある。商品やデザイン、アイデアなど対象素材となるものは幅広いが、ポイントは「ブラッシュアップ」することで成長が期待できる、あるいは効率化が実現できるものに絞り込む必要がある。

また、対象素材を見直す際には、ブレインストーミングやミーティングなどを積極的に活用したい。ネガティブな意見が出てきても、否定せず一旦は受け入れてみることが重要だ。多様な意見に耳を傾けることで、対象素材を洗い出しやすくなるはずだ。

(2)手法と工程の設定

次に、対象となる素材をブラッシュアップするための手法と工程を設定する。例えば新規事業の計画書を見直す場合は、「3カ月後には仕上げる」、「図やイラストなどを用いてわかりやすく表現する」などを詰めていく。

目指す完成形が見えてくれば、いつ・誰が・どうやって「ブラッシュアップ」するのか工程を組みやすいはずだ。

(3)実行と振り返り

手法と工法が設定できたら、「ブラッシュアップ」に向けた計画を実行し、対象となる素材の質を高めていく。「ブラッシュアップ」を進めていく中では、何らかの問題が出てくるかもしれないし、想定外のトラブルもあり得るかもしれない。だが、焦る必要はない。それらはさらなる「ブラッシュアップ」につなげるきっかけとなるはずだ。また、「ブラッシュアップ」が順調に進んでいるかどうかを随時確認することも怠らないようにしたい。

「ブラッシュアップ」の具体例

最後に、「ブラッシュアップ」すべき点について、「資料」、「サービス」、「知識やスキル」に分けて説明していきたい。

●資料

まずは、受け手から直接フィードバックを求めることが重要となる。それらを基に、内容の明確性や視覚的な魅力、情報の適切性を評価していきたい。

次のステップとしては、業界の最新トレンドやテクノロジーをリサーチし、エッセンスを資料に反映させることだ。これによって、情報の現代性と関連性が担保される。

さらには、競合他社や業界標準の資料を分析し、自社の資料が持つ独自性や改善点を明らかにしたい。競合の資料が何にフォーカスしているか、どんな情報を提示しているかを把握することで、「ブラッシュアップ」するための重要な手がかりを得やすくなるはずだ。

●サービス

サービスを「ブラッシュアップ」する際には、ぜひ顧客満足度調査を実施したい。これによって、サービスに対する顧客の評価を把握することができる。特に、重要なのはサービスの利便性、品質、サポートに関する顧客からのフィードバックとなる。その上で、内部レビューとプロセス分析を行おう。これによって、顧客が不便だと思っている手順を特定できるので、改善点を明らかにしやすくなる。

改善点が浮き彫りになったところで、最新のテクノロジーを活用してサービスを提供する方法を検討したい。デジタル化、自動化、AIの導入など、想定される手法は数多い。それを上手く活用していけば、サービスの速度や品質を向上させられる可能性がある。

●知識やスキル

知識やスキルを「ブラッシュアップ」するには、まず明確な目標設定が欠かせない。これには、どんなスキルを習得したいのか、達成したい成果は何かを具体的に定めることが欠かせない。また、学習リソースの活用も重要となる。オンラインコース、セミナー、ワークショップ、専門書籍、またはメンターシップなど、バリエーションは豊富にある。その中から、自分の学習スタイルや目標に合わせたリソースを選ぶことだ。

新しい知識やスキルの習得には、実践が不可欠となってくる。実務での応用を通じて、理解を深めることができるからだ。また、同僚や上司などからのフィードバックを得ることも、意味がある。

まとめ

ダイナミックに変わりゆくビジネス環境に適応していくためには、社員一人ひとりが持つ知識や能力、作り上げた資料やサービスを「ブラッシュアップ」していかないといけない。その際のポイントは、積極的なフィードバックと業界トレンドの把握、そして競合の分析だ。これを行うことで、課題が明確化していける。

また、資料やサービスをブラッシュアップするならば、状況に合わせて内容やデザインを刷新するのも効果的だ。加えて、知識やスキルを「ブラッシュアップ」するならば、学習リソースの活用もお勧めしたい。これらを踏まえて「ブラッシュアップ」を行うことで、知識や技術のレベルアップや、さらには資料やサービスなどをより一層磨きこむことができると言える。

よくある質問

●「ブラッシュアップ」の言い換えは?

「ブラッシュアップ」の言い換え例としては、以下のような言葉が挙げられる。
・練る
・練り上げる
・磨きをかける
・練磨する
・洗練する
・スキルアップ
・改善する
・更新する
・改良する
・改善する
・向上させる
・改善する
・改革する
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