国内外で大きな政治変動が起こっている。国内では自公政権が先の解散総選挙で過半数割れとなり、勝手気ままな政策を行うことができない環境となった。各政党の政策や離合集散から敢えて予想すれば、企業にとっては極めて厳しい状況に直面せざるを得ないだろう。最も大きな問題は経営コストの上昇である。一方、海の向こうでは来年からトランプ氏が大統領に返り咲くこととなった。「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again / MAGA)」の政策が予想されるため、日本は大中小企業を問わず、ネガティブな影響を受けることを覚悟しておいた方が良いだろう。
企業経営における「雇用」と「残業」を考える~コロナ禍や日米の政治変動で経営コストが上昇へ~

企業の負債総額が10年ぶりの水準に。その背景にあるものとは

このような、企業経営を取り巻く環境が激変する中、現状においても企業経営環境は厳しい状況にある。例えば、本年4~9月の倒産件数は約5,000件で、負債総額も約1兆5,000億円と10年ぶりの水準となっている。これまで、コロナ禍を除けばこれといった明白な要因が見られないことから、複合要因が絡まったものであろう。

では、どのような要因が考えられるだろうか? アトランダムに挙げると、下記などであろうか。

(1)事業競争力の低下
時代の変化に対応できず、需要が減少してしまっている
(2)雇用維持のためへの闇雲な出向や異業種参入
国等のインセンティブ付与政策による雇用維持策が限界に達している
(3)コロナ禍でのゼロ融資の副作用
コロナ時のバラマキの副作用が顕在化してきている
(4)円安による輸入物価の上昇や人手不足による人件費の上昇
インフレが恒常化し、企業経営を様々な局面で圧迫している


ざっくり言うと、経営を取り巻く外部環境が大きく変わってきているのに企業や働く人のマインドが昔のままであり、ギャップが大きくなっているということだ。そのギャップが倒産という形で表れているとも言えよう。

とりわけ、(2)の「雇用維持のためへの闇雲な出向や異業種参入」については、コロナ禍で存亡の危機に瀕し、やむを得ず「出向」や「異業種参入」を試みた企業も多かったのではないだろうか。しかし、それによって業績が立ち直ったという企業は少数にとどまるのではないかと思われる。これらへの対応は、企業経営にあたって積極的な意味あいがなければ成功することはないと断言できる。多くの企業が、その第一義的目的を「雇用の維持」に置かざるを得なかったからである。

経営者として、雇用を維持していくことは大事なことである。しかし、自社にフィードバックされるあてもない「出向」を奨励したり、自社の持つリソースを活かしようもない「異業種参入」を借金したりまでして行うことは、さらに経営を危うくすることになってしまう。

“仕事ができる人”は残業が多い?

昨今の時代背景から考えれば、行うべきは闇雲な「出向」や「異業種参入」などではなく、従業員に焦点をあてた能力開発である。これにより、雇用は流動化することとなるが、転職による待遇改善や潜在的な能力が顕在化することになる。そうすれば、企業はより従業員に魅力的な業務とオファーを提示することでウィンウィンの関係になれる。

つまり、「出向」や「異業種参入」で全く未経験の分野に突っ込むのではなく、現有リソースの適材適所とエキスパートの育成によるプロ集団を作ることが肝心なのである。

企業経営の使命は付加価値の創造である。決して、「赤字覚悟」とか「従業員の雇用の維持」ではないはずだ。上述の「現有リソースの適材適所とエキスパートの育成によるプロ集団を作ること」は付加価値を生む源泉である。

「仕事ができる人」や「優秀な人」というのは、将来の粗利を創造する、労働生産性向上のための先行投資的な仕事を個人で行う、などという普通の人にはできないようなクリエイティブな仕事をする人である。いわば「コーポレートデザイナー」の役割を担っているのである。

企業は繁忙期に残業しなくて済むように人員を抱えると、閑散期に人余りになって競合他社に敗北してしまう。そのため、閑散期に残業をしない業務量を考えて人材を揃え、繁忙期は残業をして仕事の調整をするのが合理的な経営である。恒常的な陣容不足の中、日常業務を終えた後に、未来につながる仕事を残業でこなすのはありなのである。

つまり、企業によっては「残業」が未来への先行投資と言えなくもないのだ。一般的には「仕事ができない人ほど残業が多い」と言われることが多いが、筆者は、本当に「仕事ができる人」は「残業が多い」という肌感覚を持っている。

冒頭のように、企業経営を取り巻く環境は厳しさを増していくだろう。国内の労働環境は年々「残業撲滅」に邁進している状況ではあるが、果たして企業の未来最適につながるのか甚だ疑問である。経験則的に、筆者は「良い残業」が企業を発展させると思っている。企業経営者としては、それが今後の業務効率、または未来の新規事業につながるものではないのか、といった視点を持ち、「コーポレートデザイナー」になり得る人材の能力開発に勤しみ、「残業」の価値を再定義することで難局を乗り切っていただきたい。
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