「退職勧奨」と「解雇」は全く別のものです。退職勧奨は“労使の合意による退職”であって、“会社からの一方的な労働契約の解約”である解雇とは違います。解雇が最終手段とするならば、退職勧奨はその前に検討するべき手段ともいえます。とはいえ、退職勧奨の仕方如何によっては「民法」の不法行為責任を問われる可能性もあります。退職勧奨について理解を深めることで、退職時の無用なトラブルを防ぎましょう。
「退職勧奨」と「解雇」は何が違う? トラブルを防ぎ円満に「退職勧奨」を行うためのポイント

「退職勧奨」とは?

退職勧奨とは、“使用者(会社)が労働者に自発的に退職を促すもの”です。会社が労働者に対し「辞めてほしい」、「辞めてくれないか」などと言って、退職を勧めることをいいます。

一見、「解雇」と似ていますが、解雇は“労働者の意思とは関係なく、会社が一方的に契約の解除を通告する”もの。退職勧奨はそれに応じるかは労働者の自由であるため、解雇とは異なります。そのため、退職勧奨による退職は、「合意退職」となります。

時々、「退職勧奨をしてもいいのですか」と経営者から質問を受けることがありますが、違法ではありません。また、解雇についてはさまざまな規制がありますが、退職勧奨については特別な規制はされていません。

不当な「退職勧奨」は損害賠償責任も

ただし、行き過ぎた退職勧奨は、不法行為(「民法」709条)による損害賠償責任を問われる可能性があります。

具体的には、労働者の自由な意思形成を阻害する場合(たとえば、誤った情報を伝える等)や、退職勧奨の態様が社会的相当性を欠く場合(たとえば、長時間、多数回、自尊心を傷つける暴言等)は、不当な退職勧奨となります。

「退職勧奨時」の適切な対応について

不当な退職勧奨にならないように、まずは就業時間内に行います。就業時間外に残ってもらうのは、態様に問題ありとされる可能性があります。また、同僚など周囲の目がある場所で行うのも問題あるでしょう。就業時間内に別室で行うべきです。

退職勧奨の面談時間ですが、長時間の拘束とならないよう、30分以内で行うのがよいと考えます。なお、会社側の面談者は2名で行うと、後々「言った」、「言わない」問題になることを防ぐことができます。面談者3名以上になると、労働者に圧迫感を与えかねません。

労働者が面談時に録音を求めてくることもあります。その際は、録音を許可しましょう。特に拒否する理由はないはずです。ただし、会社も録音しておくことを推奨します。労働者だけの録音だと会話が切り取られる可能性もあるためです。労働者からの申し出がない場合であっても、「言った」、「言わない」問題や態様の正当性を客観的に証明するツールとして録音はしておくとよいでしょう。

なお、一旦拒否された後に何度も執拗に退職勧奨を行うのは不当な退職勧奨になりますが、労働者が退職のメリットやデメリットを理解できていない、退職時の条件を変更する(たとえば、退職金のさらなる上乗せ)等の場合は、再度退職勧奨を行うことは問題ありません。

「退職勧奨」の対象者の選定は妥当か

退職勧奨は解雇ではありませんので、解雇事由に該当する行為の有無は関係ありません。だからといって、経営者の好き嫌いによって退職勧奨の対象者を選定することは問題があるでしょう。

そのため、「あの人ではなく、なぜ私が退職勧奨の対象なのですか」と理由を求められた際には明確に答えられるようにしておきましょう。

退職勧奨したら「会社都合退職」になる

退職勧奨の結果、退職に至った場合、それは前述のとおり合意退職となります。一方、雇用保険上は、会社都合退職として扱われます。自己都合退職にはならないので注意が必要です。離職証明書の離職理由には「退職勧奨による離職」にチェックを入れてハローワークに提出します。

会社都合退職は、労働者には基本手当(失業保険)の給付において有利になります。そのため、退職勧奨による離職のメリットとして伝えることも可能です。また、退職金制度によっては退職金が増額される仕組みになっている会社もあるでしょう。

一部の雇用関係の助成金が申請できない等、会社にとってデメリットはありますが、円満に退職勧奨を行うためには必要だと割り切る方がよいと考えます。
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