近年、「若手社員の働き方への考え」と「企業の経営方針」に乖離があることを痛感する。この乖離をできるだけ最小化していかないと、とんでもない事態が待ち受けている気がしてならない。以前から、企業経営と社員の意識のベクトルを合わせていくことが肝要である、と説いてきた筆者にとっては由々しき問題に映るのだ。時代の変遷に合わせて経営を変化させる。言葉では簡単に言えるが、その実践となると困難が付きまとう。さあどうする? の世界である。
“タイパ”重視で自分以外には無関心? 最近の若者気質と企業経営の再構築

日本経済状況の悪化と働き方の変容

まず、マクロ的に物申せば、現在の日本経済は極めて厳しい状況にあると認識している。その要因として挙げられるのは、総体としての目標・ゴールが明確になっていなかったこと、昭和30年代からの高度成長によって経済的に豊かになったこと、豊かさと同時に、少子化が始まったこと、これらの期間を通じて、いわゆる護送船団方式による官主導の経済・産業政策がかえって経済成長の弊害となったこと、政治の貧困も手伝い大規模で非効率な財政政策により金融政策が行き詰まりを見せていること、などであろうか。

また、企業においても一部を除き、事業の再構築が上手く進まなかった。我が国のお家芸であった製造業の凋落は目を覆うばかりである。さらに、実質賃金が下がり続けているのは周知のとおりである。

このようなマクロ経済環境下では、当然の如く働く内外の環境も大きく変容していかざるを得ない。単なる「年齢」や「性別」といった属性だけではかれる問題ではない。最近の“若者気質”と揶揄されている彼らのパフォーマンスは表層的な現象だと考えた方が良いだろう。そのような前提に立ち、若者気質を象徴的に取り上げれば次のようなことが言えよう。

なぜ若者の意識は変化したのか。考えられる3つの理由

どこの職場でも増えているのが、『上司や先輩から言われたことしかしない指示待ちタイプ』。『先輩や同僚が忙しそうにしていても、手伝わない。上司から「少し手伝ったらどうか」と諭されても、「自分の仕事はちゃんとやっています」、「指示がなかったので、僕の仕事だと思いませんでした」などと答え、定時で帰る』、このようなタイプの社員である。

指示待ちタイプというだけなら対処のしようもあるが、中には自己正当化に終始する者もいる。上司が「君が困ったら助けてもらうことになるから、お互い様だと思って、協力するのが同じ課の仲間だろう」と諭しても、「僕、ちゃんと結果出していますよね? 僕、何かおかしなこと言っていますか? そもそも、これは僕がやるべき仕事ですか?」と頑なに手伝おうとしない。それどころか、「できない人の仕事を手伝っていたら、自分の仕事ができないじゃないですか。結局、優秀で真面目な人間にしわ寄せがくるじゃないですか」と怒り出す。

このような意識へ変容した理由は、冷静に考えれば理解できる。仮説にすぎないが、以下の理由が考えられよう。

1)少子化時代の教育の影響
2)コスパやタイパ意識の浸透
3)終身雇用制の終焉


まず、少子化の影響もあって、親や教師が子どもに過保護な環境を作ってきた。このような環境では、子どもが遭遇するリスクを極力取り除き、危ないことはさせないように配慮する。従って、子どもの自発的行動の機会はどうしても制約を受ける。必然的に受け身になりやすく、自主性が育たない。

次に、高い“コスパ”意識を持つようになる。コストパフォーマンスに敏感で、「コスパが悪いから」と恋愛や結婚にまで消極的になる。

しかも、時間対効果を意味する「タイムパフォーマンス」なる言葉まで登場している。自分がかけた時間に対してどれだけの見返りがあるか、どれだけ満足を得られるかを重視する姿勢である。このように効率の良い時間の活用を何よりも重視し、時間の浪費をできるだけ少なくしようとする社員が、同僚の仕事を手伝わないと言っても、あまり驚きはない。むしろ、当然の結果かもしれない。

さらに、会社への帰属意識が希薄になったことも大きい。昭和の時代であれば定年まで同じ会社で働くのが当たり前だった。しかし、昨今は必ずしもそうではなくなった。それと軌を一にして、離職や転職に対しての抵抗感が希薄になった。「どうせ定年までいるわけではないので上司の指示に従う必要はない。我慢して嫌な仕事を引き受ける必要もない。」という感覚なのである。

その背景には、「たとえ自分が頑張っても、会社が倒産するかもしれないし、リストラに会う可能性だってある。そうなれば働き損になりかねず、そんな効率の悪いことはしない」という心理が働いているのだ。

経営者や管理職にも認識の変化が求められる

このような心理は若者の典型例ではあるが、最近の老若男女に共通している意識だと思った方が良い。誰であろうと、最近の経済環境や将来について不安心理に苛まれているのである。

自分が仕事で費やす時間にどれだけの見返りがあるのか、よりシビアに計算しようとするのは当然の反応ともいえる。おそらく、現在の職場に将来性がないと判断すれば、早々に見切りをつけるだろう。在職中にスキルアップし、できれば資格も取得して、より有利な条件で転職したいというのが本音に違いない。そのためには時間を有効に使わなければならないので、他人の仕事を手伝うなんて論外なのである。

経営者は、このような社員がメインストリームであると認識しなければならない。いつまでも時代錯誤の意識では、有能な社員から見放される。管理職も同様である。そのような社員に相対する前に、会社の経営方針としてどうすべきなのかを議論しなければならない。迂闊に彼らに議論を挑もうものなら、パワハラ問題に行き着くだけで終わるだろう。経営者の真価が問われているのである。
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