「仕事と介護の両立支援」、「介護離職防止」につなげるために、会社が介護休業制度などの仕組みを整備し、従業員へ周知する必要があります。一方で、従業員が制度や仕組みの利用を円滑に進めることができるかどうかは、組織風土が大きく左右します。すべての従業員が、介護を身近に感じることができる組織風土がとても大切です。今回は、従業員に対して介護に関する啓発にもなる “認知症サポーター” を解説します。
「介護について相談できる」組織風土へ。介護離職防止にもつながる “認知症サポーター” とは?

介護について相談しやすい職場か?
~仕事と介護の両立支援・介護離職防止のために~

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが、厚生労働省委託調査「令和3年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書 労働者アンケート調査結果」をまとめています。

その中で『職場の相談しやすさ』について、介護などを行っている労働者が回答しています。「介護のことについて、上司や同僚に話したり、相談したりすることができる雰囲気が職場にあると思うか」という質問に対して、次のような回答が得られました。
職場の相談しやすさ
概ね「そう思う」、「まあそう思う」と、「あまりそう思わない」、「そう思わない」とが半々となっています。ただし、有期契約職員については「あまりそう思わない」、「そう思わない」が過半数を超えています。これを見ると、『介護について職場へ相談しにくい』と感じる労働者が多くいるのが実態のようです。

なぜ「介護について職場へ相談しにくい」のか?
~組織風土づくりの難しさ~

2024(令和6)年3月に公表された経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」では、労働者の自身の介護状況開示への消極性について、次のように触れている部分があります。

介護は育児と異なり、明示的な始まりがなく、緩やかに発生することもある。そのことから、本人の自覚がないまま、例えば、有給休暇を使って両親のサポートを行うなど、実質的な介護が発生していることが多く、従業員から開示を行うタイミングを逸してしまう場合もある。また、自身のキャリアへの影響を懸念して、介護の状況を開示することに抵抗がある事例も生じている。
(出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」)

実際に、仕事と介護を両立している従業員が、必ずしも大多数というわけでもありません。介護が身近な環境にない従業員が多ければ、無意識に「介護について相談しにくい」という組織風土へつながることも考えられ、両立支援が必要な従業員から開示を行うタイミングを逸してしまうこともあるかもしれません。

介護について相談しやすい職場となるために「すべての従業員が、いかに介護を身近に感じることができるか」が組織風土づくりのためのポイントといえます。

“認知症サポーター” とは?
~従業員が介護を身近に感じるために~

従業員が介護を身近に感じるための1つの方法として “認知症サポーター” をご紹介します。厚生労働省では、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の人やその家族に対してできる範囲で手助けする “認知症サポーター” を増やすことを推進しています。

では、どうすればなれるのでしょうか。職域団体などが、地元の行政機関・地域包括支援センターなどへ連絡して「認知症サポーター養成講座」を申込み、受講者が講座を修了すれば “認知症サポーター” となります。その輪は広がり、現在では “認知症サポーター” は全国で1500万人を超えています。詳細については「全国キャラバン・メイト連絡協議会」のホームページで確認できます。

介護離職防止へつなげるために! “認知症サポーター” を生かす「3つのステップ」

【ステップ1】講座を受講しよう!
~約90分のカリキュラムで “認知症” を効率的に学ぶ~

認知症の症状・認知症の人と接するときの心がまえ、そして、認知症介護をしている人の気持ちを理解するなどの内容を、「認知症サポーター養成講座」では約90分で効率的に学ぶことができます。既存のカリキュラムがあり、認知症に関して専門的な知識を持った「キャラバン・メイト」が講座の講師役となりますので、とても分かりやすい内容となっています。

【ステップ2】社会貢献を実践しよう!
~一人ひとりが “できること” から始める~

 厚生労働省ホームページでは「認知症サポーターに期待されること」として、次のことを掲げています。

認知症サポーターに期待されること
1.認知症に対して正しく理解し、偏見をもたない。
2.認知症の人や家族に対して温かい目で見守る。
3.近隣の認知症の人や家族に対して、自分なりにできる簡単なことから実践する。
4.地域でできることを探し、相互扶助・協力・連携、ネットワークをつくる。
5.まちづくりを担う地域のリーダーとして活躍する。
(出典:厚生労働省ホームページ)

“認知症サポーター” となることで、会社としても接客などのサービス向上につながりますし、CSR(社会貢献活動)にもつながることになります。そのことが、従業員が認知症を、そして介護を身近に感じるためのきっかけとなります。

【ステップ3】仕事と介護の両立支援・介護離職防止へとつなげよう!
~組織風土の醸成へ~

“認知症サポーター” が多くなることが、必ずしも介護離職防止につながるとは限りません。 “認知症サポーター” と両輪となるべく、 “会社のアクション” が必要です。経営者のメッセージ発信、相談窓口の整備や充実、従業員アンケートの実施などが “会社のアクション” として考えられます。

“会社のアクション” をより効果のあるものとするため、組織風土の醸成の1つの方法として “認知症サポーター” の活用をぜひご検討ください。
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