年金を受け取りながら企業経営に携わる経営者の皆さんは、2022年6月の年金の入金額が今までよりも減っていることに気付いただろうか。コロナ禍で企業経営が順風満帆とは言えないケースもある中、年金は貴重な収入源である。それにもかかわらず、なぜ年金の入金額が突然減らされてしまったのか。今回はこの点を探ってみよう。
第16回:「2022年6月の年金額」が今までよりも少ないのはなぜ? “年金額変動の基準”とは

「物価」と「賃金」の変動によって変化する年金額

2022年6月15日は年金の支払い日である。もしもまだ入金額を確認していない経営者の方がいれば、大至急、通帳記入をして金額をチェックしてほしい。前回の入金額よりも少ないはずである。これは日本の年金制度に、支払額を年に1回調整する仕組みがあるために起こる現象である。

国民年金や厚生年金から支払われる年金は、生涯にわたって金額が変わらないわけではない。物価や給料の水準を踏まえ、年度替わりに金額が調整されることになっているため、物価や給料が上昇していれば年金額も増やされ、低下していれば年金額も減らされるのだ。これにより、長期間にわたって同等の価値の年金支払いを実現しようというわけである。

物価の変動具合は、総務省が発表する「全国消費者物価指数」に基づく「物価変動率」で判断される。また、給料の変動具合は、厚生年金の「標準報酬の平均額」に基づく「名目手取り賃金変動率」で判断されることになっている。

2022年度の年金額を決定するに当たっては、物価変動率は「マイナス0.2%」、名目手取り賃金変動率は「マイナス0.4%」と算出された。つまり、物価・給料ともに低下しており、給料のほうがより大きく低下している状態である。この場合には、給料の変動具合に合わせて年金額を調整することが法律で定められている。そのため、2022年度の年金額は、前年度よりも0.4%少ない金額になったのである。

新しい年金額に変わる最初の支払いは「6月」

「2022年度から年金が0.4%減るのであれば、4月の入金から年金額が変わるはずでは?」との疑問を持つ方がいるかもしれない。しかしながら、実際に4月に支払われた年金は、減っていなかったはずである。年金は「後払い」だからだ。

日本の年金は年に6回、毎偶数月に2カ月分ずつを“後払い”で支払うことを原則としている。例えば、2月分と3月分の年金は、合わせて4月に支払われるものである。従って、2022年4月に支払われた年金は、年度で考えれば2021年度分の年金に該当する。そのため、金額はまだ減っていない。

2022年度分の年金の最初の支払いは、2022年4月分と5月分を、6月に支払う。そのため、6月の年金の支払いから、入金額が今までとは変わるのである。

「物価は上がっている」にもかかわらず、削られている年金額

先ほど、「物価・給料ともに低下しており、給料のほうがより大きく低下している。従って、『給料の変動具合』に合わせて年金額が調整される」と説明をした。ところで、「物価が低下している」という説明は、本当に正しいのだろうか。

現在、経営者の皆さんが日々の仕事や生活で「物価の低下」を実感することは、恐らくないであろう。それどころか、「今度は○○が値上がりした」という会話を耳にすることのほうが多いはずである。

総務省発表の「全国消費者物価指数」について、本稿執筆時点の最新データである2022年4月分の数値を見ると、前月の3月と比較して0.4%ほど物価が上昇していることが分かる。さらに、前年同月と比べると2.5%の上昇とのことである。つまり現在、物価は上昇基調なのである。

従って、今回の年金額の調整には、「物価は上昇中だが、年金は削られた」という側面があることになる。

なぜ物価上昇中でも年金額が下がるのか

現在、物価は上昇基調であるにもかかわらず、年金額は削減されている。なぜ、このような現象が起こるのだろうか。その理由は、年金額の調整に使用する物価変動率が「過去の数値」だからである。

2022年度の年金額を決定する際、判断材料の一つとして使用された物価変動率は「2021年の平均数値」だ。つまり、2021年1月から同年12月までの1年間における、さまざまなモノの値段の動きを日本全国で平均すると、「マイナス0.2%」になったというわけである。

実際、全国消費者物価指数の2021年後半の推移をみると、物価がゆっくりと上昇基調に転じていることが分かる。ところが、年間平均ではマイナス0.2%となるため、この数値が年金額調整の判断材料に使用されたのだ。

また、2022年度の年金額を決定する際、もう一つの判断材料となった名目手取り賃金変動率も、現時点の数値ではない。2018年度から2020年度までの、給料に関するデータなどを基に決定された数値だ。そのため、現時点の給料変動の実態とは一致しない面があってもおかしくない。

以上のような状況から、「物価は上昇中であるにもかかわらず、年金額は下がる」という、何とも理解しがたい状況が発生しているのである。

コロナ禍で苦しむ企業経営者が少なくない中では、「1円でも惜しい」というのが実感であろう。「年金額の減少」が経営者の方々の生活に悪影響を及ぼさないことを、切に願う次第である。

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