子どもがいなくても遺族年金を残せる、法人・代表取締役
法人・代表取締役は、「国民年金」と「厚生年金」という2つの公的年金制度に加入をしている。その場合、残された配偶者には「国民年金の遺族年金(遺族基礎年金)」と、「厚生年金の遺族年金(遺族厚生年金)」とが支払われることになる。配偶者に「遺族基礎年金」しか残せない個人オーナーに比し、2つの遺族年金を残せるのが法人・代表取締役の特徴である。「遺族基礎年金」が支払われる基準は、個人オーナーの配偶者と法人・代表取締役の配偶者とで相違はないので、概要を知りたい方はこちらを参照していただきたい。
それでは、「遺族厚生年金」の仕組みについて、基本的なポイントを見ていこう。前回のコラムでは、「遺族基礎年金」は、原則として18歳(高校を卒業する年齢)になる前の子どもがいないと、支払い対象にならないことを説明した。ところが、「遺族厚生年金」には、そのような制限がない。
従って、法人・代表取締役である夫が他界した場合には、「子どもがいない」、「すでに子どもは成人している」などのケースでも、残された妻は「遺族厚生年金」を受け取れることになる。この点は、遺族年金に関する個人オーナーと法人・代表取締役との大きな相違点といえるだろう。
子どもがいない場合、妻が受け取る遺族厚生年金は増額される
また、子どもがいないために「遺族基礎年金」がもらえない妻の場合、夫の他界時に妻の年齢が40歳以上65歳未満であれば、「遺族厚生年金」が増額されるという仕組みも用意されている。具体的には、「遺族厚生年金」に「中高齢寡婦加算」という名称の上乗せが行われるのが原則であり、これは、妻が65歳になるまで付与され続ける。現在、「中高齢寡婦加算」の金額は、1年間で58万5700円である。そのため、仮に妻が40歳から65歳になるまでの25年間で、遺族厚生年金にこの上乗せが付与され続けたとすると、累計で約1464万円(=58万5700円×25年間)を余計に受け取れる計算になる(令和3年度の金額で概算した場合)。
なお、“18歳になる前の子どもがいる”など「遺族基礎年金」をもらえる妻の場合には、「遺族基礎年金」をもらえなくなった時に40歳以上65歳未満であれば、同様の上乗せが行われることになっている。
他界した夫の厚生年金の加入期間が短いと、妻の遺族年金は増額される
「遺族厚生年金」は、他界した人の「厚生年金の加入期間の長さ」と「給料額の多さ」の両方に比例して金額が決定される。つまり、他界した家族が厚生年金に長く加入していたほど、また、現役時代の給料水準が高かったほど、遺族が受け取る「遺族厚生年金」の額も高額になるわけだ。それでは、生前の厚生年金の加入期間が短い場合はどうなるだろうか。例えば、法人の代表取締役が厚生年金に5年加入したところで、不慮の事故に遭って他界したとする。この場合、夫の厚生年金の加入期間はわずか5年しかないため、残された妻が受け取る遺族年金の額は、非常に少額になるように思われる。
ところが、「遺族厚生年金」には、このような場合に年金額を増額する救済措置が用意されている。それは、厚生年金の加入期間が25年未満で死亡した人の遺族に対しては、「厚生年金の加入期間は“25年”だった」と仮定し、実加入期間に応じた年金額よりも多い遺族年金を支払うという仕組みである。
そのため、前述の“加入5年”で代表取締役である夫が他界したケースでも、残された妻は「厚生年金に“25年”加入した夫が他界した」とみなされ、増額された遺族年金を受け取れることになるのだ。
残された妻が30歳未満だと、遺族構成年金の支払いは5年で打ち止め
「遺族厚生年金」は、原則として生涯受け取れる年金である。しかしながら、わずか5年間しかもらえない特殊なケースもある。「夫を亡くした妻が30歳未満で子どもがいない場合」だ。例えば、法人・代表取締役である夫が他界し、「残された妻は29歳で子どもがいない」という例で考えてみよう。このケースでは、「夫を亡くした妻が30歳未満で子どもがいない場合」に該当するので、この妻は29歳から34歳までの5年間だけ「遺族厚生年金」を受け取り、その後は遺族年金を一切、もらうことができない。この仕組みは、「夫を亡くした妻の年齢が29歳か30歳かで、遺族年金の受取期間に何十年もの違いが出る」という特徴があり、とても厳しいルールと言えよう。
前回・今回と2回にわたり、社長に万一のことがあった場合の遺族年金について、基本的なポイントを見てきた。総合的に判断すると、個人オーナーである夫が他界した場合より、法人・代表取締役である夫が他界した場合のほうが、残された妻が受け取る遺族年金はかなり手厚いといえる。
ただし、遺族年金の受取資格・金額には、他にもさまざまなルールが存在する。また、法律の内容が改正されることも少なくない。従って、残された家族が思わぬ年金トラブルに遭わないようにするには、社長業のかたわら、年金制度に関する情報収集を進めることも大切ではないだろうか。
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