離婚をしても年金に影響がない個人オーナー
職場を法人化していない個人オーナーと、法人化された職場を率いる代表取締役とでは、加入する公的年金制度の種類が異なる(詳細は『【社長の年金】第1回 社長はどんな年金をもらうのか』〈2018年7月9日付〉を参照)。そのため、「離婚が年金に与える影響」も、個人オーナーと法人の代表取締役とでは同じではない。はじめに、「職場を法人化していない個人オーナー」の場合には、公的年金制度は「国民年金」に加入をすることになる。この場合、老後は国民年金の制度から「老齢基礎年金」を受け取る。この年金は離婚をしても、当初の予定どおりの金額を受け取ることが可能である。
したがって、個人オーナーの場合には、仮に離婚をするような事態に陥っても、それによって老後の年金の受け取り額に影響を受けることはない。
ところが、「法人化された職場を率いる代表取締役」の場合には、そうはいかない。なぜならば、法人の代表取締役が受け取る老後の年金は、離婚をすると減額されるケースがあるからである。
法人の代表取締役が離婚すると、年金は「年金分割制度」により減額も
「法人化された職場を率いる代表取締役」の場合には、公的年金制度は「国民年金」と「厚生年金」の両方の制度に同時加入するのが原則である。この場合、老後は国民年金の制度からは「老齢基礎年金」を、厚生年金の制度からは「老齢厚生年金」を受け取ることになる。法人の代表取締役が離婚をした場合、「老齢基礎年金」は、前述のとおり当初の予定どおりの金額を受け取ることが可能である。しかしながら、「老齢厚生年金」については「離婚時の年金分割制度」の対象となり、減額される可能性がある。
「離婚時の年金分割制度」とは、離婚により発生する男女間の“年金受取額の格差”を是正するために設けられている制度だ。2007年4月に開始された「合意分割制度」と、2008年4月に開始された「3号分割制度」の2つの仕組みで構成されている。
具体的には、当事者からの申し出により、厚生年金加入中に企業から受け取った「給料・賞与の記録」を元夫婦間で分け合うのが、この仕組みの特徴である。つまり、経営者の「給料・賞与の記録」の一部が、離婚により元パートナーのものになるわけである。
この制度では、最大で自身の「給料・賞与の記録」の半分が、離婚した元パートナーのものになる可能性がある。例えば、結婚後に「月額50万円の役員報酬」で「20年間勤務」した経営者がいるとする。この場合には「年金分割」により、あたかも「月額25万円の役員報酬」で「20年間勤務」したかのような取り扱いがおこなわれてしまうこともあるわけである。残りの記録は、すべて元パートナーの年金記録に振り替えられてしまう。
将来、受け取る「老齢厚生年金」は、厚生年金の「給料・賞与の記録」の数字が大きいほど額が多くなる。そのため、別れたパートナーに記録の一部を分け与えた経営者は、離婚をしなかった場合と比較して、少ない年金しか受け取ることができなくなる。反対に、別れた経営者から記録の一部をもらったパートナーは、将来の年金額が当初の予定よりも多くなるわけである。
離婚による年金損失は数百万円を超える場合もある
具体例で考えてみよう。厚生労働省が2019年12月に発表した「平成30年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、平成30年度(2018年度)に「離婚時の年金分割制度」のために年金額が減額された人の平均年金額は、次のとおりである。・減額前…143,208円/月
・減額後…112,272円/月
1ヵ月当たり「30,936円」の減額であり、1年間に換算すれば、年金分割により約37万円の収入減ということになる。
現在、65歳男性の平均余命は19.7年なので(厚生労働省「平成30年簡易生命表の概況」)、65歳から年金受給をはじめた男性は、平均で20年程度、年金を受け取り続けることになる。この間、仮に「年金分割」で1年間に37万円減額された年金を受け取り続けたとすると、生涯で700万円を超える年金収入の損失を被る結果となる。
以上のように、離婚は老後に受け取れる年金額に、思いのほか大きな痛手を与えることになる。社長業をリタイアした後には年金収入が家計の柱になるであろうことを考えると、これは決して侮れない事実である。社長業に邁進するのも結構だが、「円満な家庭生活、良好な夫婦生活と社長業の両立」という点も、忘れないほうがよさそうである。
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