従業員の将来もらえる年金額を、社会保険(厚生年金保険)の加入有無で比較
「夫が働き、妻は家事や育児そして扶養の範囲で働く」。こんな家族をモデルとして作られているが公的年金でした。まず、夫や妻が厚生年金保険に加入していた場合、2021(令和3)年度の厚生年金の受給権者(※)の平均受給額を調べてみると、以下のような結果となりました。
※男性・女性の支給額は、「65歳以上の受給権者」のデータ。また下記金額には基礎年金部分が含まれます。
下記のデータを見ると、男性と女性では支給額に約6万円の差がありますが、いずれにしても「これだけで生活できるの?」と不安になった人も多いのではないでしょうか。そんな不安を持たれたのであれば、ぜひ、積極的に厚生年金保険に加入して受給金額を増やしてみてはいかがでしょうか。
社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入することで企業もリスクが減少
社会保険(健康保険、厚生年金保険)は国の公的保険であり、一部の個人事業者を除き、法令により会社と従業員に加入が義務づけられています。社会保険に加入したことで、将来もらえる年金額が増えたり、出産手当金や傷病手当金の給付対象になったりするなど、多くのメリットがあります。仮に、従業員が傷病などで働くことができない場合は、健康保険から傷病手当金が受給できます。障がい者になってしまった場合は、厚生年金から障害年金が受給できます。最近では、新型コロナウイルスにより仕事ができない場合に給付の対象となりました。そういった給付が出ることは、会社にとっても安心ではないでしょうか。
一方、会社にとっては「保険料負担」があるので、“加入要件を満たしているのに加入させたくない”という事例もあるようですが、それはリスクが高いです。仮に、「加入対象になっているにも関わらず、会社が社会保険等への加入義務を怠っていた」という場合、保険料の遡及納付を要求されたり、罰金を科されたり、従業員から損害賠償を請求されたりなど、様々な経営上のリスクを負うことになります。
社会保険料の遡及納付
社会保険の加入手続きを怠っていた会社は、最大で過去2年分まで遡って社会保険料を納付しなければならない可能性があります。例えば、「従業員10人/平均給与30万円」の会社の場合、2年分の社会保険料(会社負担分と従業員負担分の合計)として約2,160万円(※)が請求されることになります。
なお、従業員にも過去に遡って社会保険料(従業員負担分)を納付してもらうためには、従業員の同意が必要となり、説明や手続き、給与関連書類の訂正等が必要となります。また、未加入だった期間、従業員は自分で国民健康保険・国民年金に加入しているはずですから、その手続きも大変です。
※社会保険料:平均給与月額30万円×社会保険料率約30%×10人分×24ヵ月=約2,160万円
損害賠償の請求
社会保険への加入時期は、加入要件に該当したときまで遡ることができます。一方で、社会保険料は最大2年分しか遡って納付することができません。その結果、年金に加入できない期間が生じ、従業員が「年金受給資格期間に満たない」、「本来受給するべき年金額に満たない」などの不利益を被る場合は、会社がその損害賠償責任を負う可能性があります。以下の「豊国工業事件」のように、実際に、従業員が会社に対して損害賠償請求をした例もあります。
その他の影響
社会保険への加入義務があるにも関わらず、加入を見送り続けた場合、法的な罰則(最大で6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金)が事業主に対して与えられる可能性があります。*
厚生年金に未加入の際には、従業員が交通事故に遭って障がい者になっても、障害厚生年金をもらえないということになります。その損害賠償額はいくらになるのでしょうか。社会保険の未加入には、様々な経営上のリスクがあることを十分理解しておきましょう。
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