「OJT」、「OFF-JT」だけが“社員教育”ではない
企業が社員に対して行う教育活動は、一般的に「OJT」と「Off-JT」の2種類に分類される。OJT(On the Job Training)
職場で実務を体験させながら実施する教育・学習手法
Off-JT(Off the Job Training)
職場以外で場所や時間を取り、行う教育・学習手法
しかし、社員を教育する手法は「OJT」、「Off-JT」に限定されるものではない。“社員教育”と認識されていない活動の中にも、人材教育において極めて「重要な役割」を果たしているものがある。そのひとつが「リーダーの日々の言動と行動」だ。これには、部下の言動や行動に多大な影響を与えるという特徴があるのを覚えておきたい。
部下は「リーダーの日々の言動と行動」を見て学ぶ
例えば、社内でほかの社員とすれ違う際、「お疲れ様!」と笑顔で気持ちよく挨拶をするリーダーの下にいる部下たちは、お互いに「お疲れ様です!」と笑顔で挨拶をする傾向が強い。リーダーが率先して挨拶などのコミュニケーションを大事にする職場は、社内の雰囲気が明るく、気持ちが良い。反対に、口数が少なく、挨拶もかわさないようなリーダーの下では、部下たちも挨拶をせず、自然と口数が減る。このような職場は、おのずと雰囲気が悪くなり、沈滞しやすいだろう。また、職場で常に背筋を伸ばし、デスクで仕事をしているリーダーの下では、部下たちも同じように姿勢良くデスクに向かう。このような職場は良い緊張感に包まれており、来訪客に与える印象も良くなるだろう。だが、いつも猫背、またはふんぞり返るような姿勢で仕事をしているリーダーの下では、仕事をする部下たちの姿勢や身だしなみも乱れる傾向があるため、来訪者に良い印象を与えられなくなる。皆さんも、少なからず心当たりがあるのではないだろうか。
他にも以下のような「部下に影響を与える言動・行動」がある。
・返事の仕方
・雑談の仕方
・昼食の取り方
・事務機器の使い方
・来客との接し方
・残業の仕方
・出勤後、仕事を開始するまでの過ごし方
「出勤してから退勤するまで」の間にリーダーが行うすべての言動や行動は、一緒に働く部下たちに良くも悪くも影響を与えることになる。そして部下の多くが、無意識のうちにリーダーと同じ言動や行動をとるようになるものである。つまり、職場におけるリーダーの「業務姿勢」や「言動・行動」のすべてが、部下を“好ましい職業人”として成長させるために不可欠な「教育の役割」を果たしているわけである。
“上司の言動と行動”から学ぶ機会を喪失する「在宅勤務」
組織内でこのような現象が発生する理由は、「部下は上司の真似をする」という特性に由来する。そのため、常に「職業人として好ましい言動と行動」がとれるリーダーの下では、無意識のうちにその言動と行動から学び、模倣する部下が次々と現れることになる。これは、リーダーと部下とが同じ空間を共有しているからこそ発生するものである。同じ職場に出勤して仕事をするからこそ、リーダーの言動と行動が、メンバーへの教育効果を発揮するわけだ。しかしながら、リーダーと部下が同じ空間を共有しておらず、Webミーティング等以外では顔を合わせてコミュニケーションをとる機会が希薄となる「在宅勤務」では、このような教育機能が果たされない。これが「在宅勤務」という勤務スタイルに内在する、人材教育上の大きなウィークポイントだろう。
リーダーの日々の言動と行動は「組織風土・企業文化」を醸成する
「リーダーの日々の言動と行動」は、部下の言動に多大な影響を与える。これを換言すれば、「リーダーの言動と行動」が「部下の習慣を変える」ことを意味する。多くの「部下の習慣」が変化すれば、その習慣は「組織の風土」となる。つまり、「リーダーの日々の好ましい言動と行動」は、「好ましい組織風土・企業文化の醸成」に結び付くわけである。「組織風土・企業文化を醸成する」という視点で考えた場合、上司と部下が同一の空間を共有しない「在宅勤務」は、職場に出勤し勤務する「通常勤務」を完全には代替できないということになるだろう。「好ましい組織風土・企業文化」は、企業が持続的成長を遂げる上で不可欠な要素である。「在宅でも同等の仕事ができる」、「在宅勤務はコスト削減効果が大きい」などの短期的・顕在的メリットばかりに着目することなく、組織活動における「リーダーの機能」と「役割」についても、企業側はいま一度確認していただきたい。
大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
組織人事コンサルタント・中小企業診断士・特定社会保険労務士
- 1