昨今の市場状況は、新たな価値を創り、需要を創造していかなければならない経営環境になっています。
そのため、「新たな価値を創造する」「需要創造」などの方向性を打ち出している経営トップも増えてきています。ここでは、「需要創造」に表現を統一します。
ところが、方針は出してもなかなか思うように現場が動かないのも現実です。そのような場合に、今までの戦略や体制と需要創造の戦略・体制が組織の内部に混在し、現場が「どうすれば良いか」の判断に苦しむという状況が発生していることをよく聞きます。
経営トップのみならず、経営現場でも、どちらが正解か、拮抗している場合が発生しているのです。
経営トップの葛藤と痛み
①連続性か、革新性かで葛藤する「需要創造」の方向性という革新性を重視して判断しようとしても、現実には長年付き合いのあるお客さまの要求に応え続けるという連続性も大切にしなければ、現在の利益が逼迫する。連続性を重視すれば、何も変わらないと葛藤する。
②市場起点の需要創造型戦略が構築できない
現場では、事業の差異化戦略(コストリーダー・製品リーダー・カスタマーインティマシーなど)が、自社起点の発想でしか議論されないために、「需要創造」につながる戦略・戦術が各部門で生まれたと思えず、各部門に「介入するか、任せるか」で葛藤する。
③昔から慣れ親しんだ機能別組織の体制を「変える・変えない」で葛藤する。
「需要創造」がしやすいのは、市場からの情報が組織の中枢に流れる組織体制であることは理解できるが、機能別組織も捨てがたいと葛藤する。
ジェックの場合
バブル崩壊後に、需要創造型戦略を打ち出し、「需要創造の無限サイクル」が回せる体制にすることに取り組みました。しかし、7~8年が経過した時のことです。
社内浸透による成果は、少しずつ上がってきているにも関わらず、その不十分なスピード感に業を煮やした経営トップが、以前の機能別体制に戻し、「需要創造」を1チームの機能としたことがあります。
そのため、社内に「需要創造は、やらなくても良い」という考え方が蔓延した時期がありました。
その後を引き継いだ私は、期中でも需要創造型戦略と体制にやり直そうか、前任者の打ち手を区切りのつくときまで続けようか、日々葛藤し、思い悩んだことがあります。
結果的に半年後には、本来の需要創造型戦略と「需要創造の無限サイクル」体制に本格的に戻すことにしました。
しかし、その間の社内の混乱を、後々にまで引きずったことを考えると、私の中では、失敗体験の色合いの方が強いと思っています。
特に、ネガティブな影響として以下の点がありました。
・機能別組織に戻したことにより、機能別組織の部門間の健全な競争を強化するというメリット以上に、部門間対立が激化してしまったこと
・そのため、市場からの情報を基に、新たな価値を創るという発想が希薄になってしまったこと
・そして、それまで取ってきた需要創造型戦略に基づく組織戦(部署、チーム同士の連携)が、個人戦(個人レベルの連携)に戻ってしまったこと。そのため、組織の知恵が生まれにくくなってしまったこと
などです。
では、経営トップとしてどのような考え方を持っていれば良いかを、当時の体験から学んだことも含めて整理したいと思います。
経営トップとして、どうすれば良いのか
①連続性と革新性を統合する中心発想を持つこれは、革新性で連続性を再定義するという意味です。革新性を実践する場合、今までの連続性は意味合いが変わります。例えば、長年の取引先は、新たな価値を共に創るパートナーとして関係性を深化させるチャンスになるという意味です。
②市場起点の需要創造型戦略を構築することが、より良い価値の創造を促進する
需要創造型戦略とは、市場情報を活用した事業の差異化戦略(コストリーダー・製品リーダー・カスタマーインティマシーなど)をいいます。
③「需要創造の無限サイクル」体制にする
これは、市場のニーズ情報から得られる知見を基に自社の強みを活かして新たな価値を創出するとともに、組織として新たな価値を創造し続けることのできる「一気通貫」の体制を創ることです。
このような判断基準を経営トップ自身が持って意志決定に当たることを心がけたいものです。
経営判断まとめ
□“社会や市場へより良い価値が提供し続けられる戦略とそれを実現する体制になるか”で判断せよ。□社会や市場の富の創出が企業活動の目的である自社の強みを活かし、市場情報を活用し、より良い価値が創造し続けられる戦略を構築せよ。
□その戦略が実現する「需要創造の無限サイクル」が回る体制を創ることを判断基準とせよ(どちらの方が、需要創造が促進されるか、無限サイクルが回りやすいか)。
経営トップの判断基準の一助になれば幸いです。
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