労働市場が二極化、AIにできない「わくわく」を実現できる人材の獲得競争に
第2部のゲストトークの登壇者は以下のとおり。・株式会社プロノバ 代表取締役社長 岡島悦子氏
・株式会社LiB 代表取締役 松本洋介氏(主催者)
岡島氏は、これまで約15年間、経営チーム開発や経営人材育成などにたずさわってきた、リーダー育成のプロフェッショナルだ。同氏ははじめに、2025年ごろには労働市場が完全に二極化するだろうとの見解を述べた。獲得競争される人材と、AIに取って代わられる人材の格差が大きくなるのだという。
全体として労働人口が減る一方で、労働寿命が80歳くらいまで延び、今ある仕事の49%が、AIに取って代わられることがそう考える理由だ。そのため、自分や人を「わくわく」させるという、AIにはできない仕事のできる人材が重要になってくる、と述べた。
そのこと踏まえた上で、人事の仕事は今後どう価値を高めていくべきか、AIにとって変わられる人事の仕事はあるのか、という議論が進められた。
岡島氏曰く、人材獲得競争が激化するなか、人材の採用やリテンションに関する人事戦略を設計することが、今後、人事の中心的な役割になるとのこと。そのための具体的な制度設計などは、アウトソースされていくのではないかと同氏は予想する。加えて、事務手続きの実行や管理なども、機械に取って代わられるのではないかというのが同氏の考えだ。
そうした戦略的な人事の仕事にふさわしい人材は、コミュニケーション人材にも重なるという。採用応募者や従業員に対して、相手を徹底的にプロファイリングし、それに基づいた戦略を立てられ、さらに、相手の心のスイッチをどう入れていくかを考えられる人材、つまり、戦略上のKSFや比較優位性といった自社の強みを見極め、経営者目線で考えられる人材が戦略人事に必要とされる、という。
ポテンシャルのある人材を獲得するための採用方法・環境作り
続いて、人にしかできない仕事のできる優秀な人材をどう集めるか、また他社と比較された際に選ばれるための工夫として何が必要か、という問題提起がされた。岡島氏曰く、採用の際に、過去の実績だけではなく、「今後の実績がどう見込まれるか」というポテンシャルを見る必要があるとのこと。人材のポテンシャルを見極めるためには、面接などで人材に投げかける各社固有の「キラークエスチョン」を考える必要がある。キラークエスチョンは具体的なものがよく、たとえば「子ども時代に熱中していたものは何か」といった質問が効果的だという。そのほか、「わくわく力」は、いわゆる「地頭」とは異なる部分もある点にも留意し、人材を見極めることも必要だと強調した。
また、労働マーケットで優秀な人材に選ばれる企業の条件としては、活躍できる場が用意されていることが挙げられるという。成長している企業は、そうした活躍の場が生まれやすいため、ポテンシャルを持った人材が集まりやすいとのこと。
とはいえ、成長の著しい企業と競争して勝つことは困難なこともあるため、転職の「潜在層」の採用を目指すのがいいと、同氏はアドバイス。潜在層とは、転職の意志は明確でないが、将来成長したいと思っている人や、すでに活躍しているなかで、今後一層活躍できる機会を探している人を指す。転職したい意志がはっきりしており、転職活動も実際に行っているような顕在層は、どうしても目立った成長企業に取られてしまうため、こうした潜在層が狙い目だという。
さらに、「どうしてもこの人と働きたい」という優秀な人材を見つけたとき、確実に獲得する方法として、その人材に対し、「いつか一緒に働きたい」と伝え続けることが効果的だと紹介された。たとえば、内定を出したにもかかわらず、他社への転職を選んだ人材に対して使える方法だという。そのときは偶然タイミングが合わず、転職先として選んでもらえなかったとしても、もし、その人材が再度転職を考えたときに、転職先候補として顔を思い浮かべてもらえるよう、「人材の心に付箋を貼る」ことが重要だと述べられた。
技術×人によって強いユーザーエクスペリエンスを作る方法
最後に、技術×人で、全体としてのユーザーエクスペリエンスを構築する方法と、そこでの人の役割について議論がされた。岡島氏は、強いユーザーエクスペリエンスを作る方法として、2つの点が重要だと主張。
1つ目は、Collective Genius(集合天才)。社長や従業員ひとりで作るのではなく、たとえば、カスタマージャーニーを作るときには、エンジニアとカスタマーサービス、マーケティングといったさまざまな部門が連携することが必要だと述べられた。
2つ目は、課題に対する解を、顧客と共に創っていけること。そのためには、企業と顧客が一緒になって課題解決できる環境整備をするとともに、顧客に対して良い問いを投げかけられるコミュニケーション能力が重要になると強調した。
近年では、企業が事業優位性を構築するためには、プロダクトや技術が優れているだけでは難しい。顧客がプロダクトを通じて課題を解決できるよう、能動的にコミュニケーションサービスを提供する職種が求められている。そうした職種に就く優秀なコミュニケーション人材を獲得するためには、他社と比較して選ばれるような戦略的な人事の在り方が重要だ。今後の人事の在り方を構築するために、同イベントの登壇者が提示した事例や考え方は、大いに参考になるだろう。
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