後継者育成の外注はリスクを孕む
書籍『インテリジェンス 武器なき戦争』(手嶋 龍一・佐藤 優/幻冬舎新書)によると、諜報機関ではメンバーを海外で研修に参加させる際、派遣先を分散して一部に集中しないようにするそうだ。特に、コアになるメンバーは外国の諜報機関の学校には留学させないという。これは、センシティブな情報が外部に漏れるリスク回避及び、自国の機関人材の育成を完全に外部任せにしないためである。後継者育成の文脈で読み替えても同じことがいえそうだ。外部講師を呼んだり、外部の研修に参加させたりと、外部のやり方をそのまま踏襲して外部任せにするのも良いが、「自社の」後継者育成の施策だと考えると危険ではないだろうか。
以前、自社の属する業界をよく分かっているという理由で、業界のリーディングカンパニーから独立したコンサルタントに後継者育成の大半を外注しているという話を聞いたことがある。しかし、リーディングカンパニーの教育方針が自社に合うとは限らない。また、後継者教育はセンシティブな情報も扱うため、情報漏洩のリスクもないとは言い切れない。
研修を「セミオーダー」する
そこで重要になるのが「クオリティの高い育成を、外部講師を介さずにいかに計画するか」である。当社が「研修内製化支援」を事業領域とするのは、まさにこれを実現するためだ。当社のゲーム研修教材を触媒すれば、経営者や人材開発の責任者自身で、外部講師を介さずに、自社の実情と密接につながる後継者育成の計画を作り上げられる。つまり「自社」の後継者育成の計画を、完全なる内製でも外注でもなく、その両方の良さを採用して「セミオーダー」できるのだ。後継者育成の計画策定をセミオーダーで実現するために、当社のゲーム研修は全て1日で完結するように制作している。自社独自の研修コンテンツと連結して運用することを想定しているからだ。後継者育成のコースでは2~3日のモジュールを複数回行い、モジュール間でアクションラーニングをしながら進めることが多い。
研修というと内製か外注かしか選択肢がないように思われがちだが、第三の選択肢として、外部者である当社が提供する教材(具体的にはゲーム研修)を導入することで、経営者に必要な経営経験、外部講師が持つ一般的な経営知識、自社独自の機密情報をうまくつなげた研修が設計できる。また、外部者の目に自社の重要情報を晒すこともない。
では、自社で実施する研修では何をすれば良いだろうか。
研修内容と経営が繋がらなければ経営者は満足しない
研修の効果を高め、「自社の」後継者育成に足るものにするのに重要なものがある。それが「研修内容と自社の経営の連結」だ。外部のコンテンツでは、自社に適用できるか分からない単なるお勉強になりがちだ。中高生が学校で世の中のことを教わっても、社会に出ていないので具体的なイメージがもてないのと同じように、経営経験のない人が経営の一般論を聞いても、具体的なイメージが持ちにくい。しかし、「経営経験がないので、後継者育成は成功しませんでした」では、経営者の期待を満たすのは難しい。経営者は成果への高いプレッシャーがあるため、研修目標の達成を通じたビジネスゴールの達成が関心事である。特に、会社の将来に最も大きな影響を及ぼす後継者育成では「研修内容と自社の経営の連結」の重要度は計り知れない。例えば、「利益と同時に資金繰りが重要だと理解できている」は研修目標の1つとなる。しかし、こうした「重要性認知」は漠然としていて実体を持たない。このため、この研修目標とビジネスゴールの繋がりの説明が求められる。これを1日の単発の研修で行うのは難しいが、研修の直後に自社の経営と重ね合わせれば、ビジネスゴールと繋がる。
では、研修内容と自社の経営を連結するために何をすべきか。特別なことは必要ない。経営者育成の研修では、事業計画の策定を課すことが多いが、それで十分だ。事業計画策定というありがちな方法をあえて提案するのは、ゲーム研修での経営体験の有無で事業計画のリアリティが全く異なるからだ。絵に描いた餅、すなわち見通しの甘い計画を作成することが減り、現実感のある計画が並ぶ。現実感のない絵に描いた餅を並べてシャンシャンと終わる後継者育成に憤る経営者が多いことを鑑みると、この差は大きな成果だといえるだろう。
ゲーム研修実施後の“当事者意識の変化”を誘発する“ナラティブ”な体験とは?
ここまでを読んで、経営学の勉強や経営者の講話をすればゲームである必要性はない、と思う方もいるのではないだろうか。しかし、ゲームでなければならない理由がある。ここからは、研修内容と自社の経営を連結するにあたり「なぜゲームを用いる必要があるか」を説明しよう。実は、ゲーム研修実施後に、ゲーム研修で学んだことと自社の経営とを連結する時間を取ると、そうでない場合と比べて、思考の質に変化が見られる。
「カラーバス効果」をご存知だろうか。例えば、1枚の写真を見せられた後に、黄色いものはいくつあったかと問われても、答えに窮する。しかし、黄色が重要だと知っていれば写真を見る時に黄色が目につく。身近な例では、目的と目標、視座と視野といった語義の違いを知ってから言葉に気を遣うようになることがある。
こうしたカラーバス効果はゲーム研修でなくても起こりうる。しかし、ゲーム研修では、この効果がとりわけ強い。何故なら、ゲームでの体験がナラティブな体験だからだ。ナラティブな体験とは、知らない人が体験したストーリーを聞く「第三者」としての体験ではなく、まさに自分が経験する「当事者」としての体験である。このため、ゲームを使用しない研修で聞きかじるよりもリアリティがある。
例えば、ゲーム研修で「資金繰り」を体験したとしよう。その直後に、具体的な経営計画を目にすると、自分が実際に資金繰りに四苦八苦した経験がフラッシュバックする。そして、その視点で考えを深められる。例えば、「全方位に資金配分できなかった理由は何だろう」「大量の採用を行ったから、育成やオフィス面積に投資することになったのかな」「この施策を選んだから、逆にこの施策を選べなかったのではないか」などである。
このように、ゲーム研修を利用し当事者として考えることで経営へのリアリティが増し、複眼的に経営を俯瞰し、様々な事情を勘案した上で堅実な見通しが立てられるようになる。その結果、後継者が計画しがちな非現実的な計画を排除できるのだ。
後継者候補が経営にリアリティを持つことは後継者育成のアウトプットに影響を与える。既存の後継者育成の計画に「ゲーム」を差し挟むだけで、研修内容と経営がつながり、経営者が満足するような質に変化する。また、これを外注ではなく外部ツールを使った内製で行うことによって、経営者育成というセンシティブな内容が外部の目に晒されることがなくなるのである。
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