とある企業の第二営業部の会議。第二営業部は今期に入り、売り上げ目標が三ヶ月連続で未達成だった。そこで総勢20名の第二営業部メンバー全員が集められ、「残り三ヶ月、売り上げ目標を達成するために何ができるか?」についての話し合いをすることになったのだ。
進行係を任されている入社6年目の近藤が口を開いた。
「今日の会議では、役職や勤続年数、先輩、後輩も関係ありません。とにかく売り上げ目標を達成させるためにできることをみんなで考えたいと思います。では「売り上げ目標を達成するためになにができるか?」について、まずは一人ずつアイデアを言っていきましょうか。前園さんから時計回りで一言ずつお願いします」
その直後、一番手前に座る前園が口を開きかけたとき、後ろの席から「ちょっと待った!」と声がした。声の主は、入社10年目のベテラン社員、藤堂だった。
「一人一言ずつアイデアなんて聞いていられないよ! 20人もいるんだぜ? そんなことをして、時間内に意見がまとまると思えない。もっと効率よく進めようよ」
「あ、そうですか……そうですよね。では、アイデアがある方から挙手という形にします。みなさん、どうでしょうか?」
近藤がそう言うと、「じゃあ、はい!」と、菊池が手をあげた。菊池はまだ20代前半だが営業成績が良く『第二営業部のホープ』と言われていた。
「私のアイデアは、「今忙しいんで」という理由で断られたお客様には、メールかDMを送ること。そうすれば、メールかDMが届いた後「見ていただけましたか?」という口実で再アプローチをかけることができます。」
「はああ……なるほど……」近藤は心底感心した様子で頷いた。さすが第二営業部のホープ、ハキハキしていてとても説得力がある。メモ係の斎藤は、菊池の意見をスラスラとホワイトボードに記入し始めた。
「ほかに意見はありませんか? 先ほども申し上げましたが、役職とか関係ないんで、新人さんもどんどん意見をお願いします。服部さん、どうでしょう?」
そう言って近藤は、入社1年目の新人・服部を名指しした。
服部は、おどおどした様子で回りを見渡しながら、こう答えた。
「え~っと……私はですね……その、残り三ヶ月、アポのとれたお客様は、契約率の高い営業マンがプレゼンに行くようにすればいいんじゃないかなあと思いました。そうすれば、確実に契約を取れるのではないかなあと……思っています。なんていうか、私とか、せっかくプレゼンに行っても、契約の段階でオドオドしてしまうことが多くてですね……。こんなときどうすればいいだろうって混乱しちゃうことも多くて。先輩たちならもっとうまくやれるんだろうなあって……」
服部の小さくよく聞き取れない声と長くまとまりのない話を、最後まで聞いているものはいなかった。
「……え~と、じゃあ、それは、一部のベテラン営業部員だけがプレゼンをするということ?」と、近藤が尋ねた。
「えっと、はい……。そうです……」
服部はそう呟き、自信なさげに俯いた。
メモ係の斎藤は、ホワイトボードに『ベテラン社員がプレゼンする』と書いた。
「では、ほかに意見はありませんか?」
近藤はそう言って参加者全員を見渡した。
その後、意見が出るには出たが、どれも説得力に欠けるものだった。
最終的に、プレゼン力も高く、営業成績も良い菊池の意見が決定事項として採用されたのだった。
大人数の場合はチーム分けをする
事例のように、会議の参加人数が多い場合、全員の意見を吸い上げようと思うと時間がかかります。事例では、一人一言ずつ発表の予定が挙手に変更になりましたが、このようなやり方では多種多様なアイデア引き出すことができません。会議のやり方を工夫すれば、人数が多くても全員の意見をもれなく吸い上げることは可能です。『チーム分け』をするのです。1チーム5名以下が理想です。20名の参加者なら、5名×4チームができます。
チームに分けて、チーム内で次のような手順で話し合っていきます。
・アイデア出し
・各アイデアのメリット出し
・各アイデアのデメリット出し
・各アイデアのデメリットの策出し
・決定事項にまとめる(各アイデアを吟味し、得点をつけて集計する)
そして、各チームでまとめた決定事項を、全員の前で各チームの代表者が発表します。
最後は、各自が各チームの発表されたアイデアを吟味し、得点をつけていきます。集計して一番高い得点だったアイデアが、決定事項となります。
すると、全員の意見をもれなく吸い上げることができ、かつ合理的に決定事項がまとまります。
発表の仕方は統一する
各チームで話し合い、決定事項をまとめて発表する際、発表の仕方は統一するようにします。(例)「○○について、Aチームの提案は△△です。△△のメリットは、……です。デメリットは、……です。デメリットの対策は、……です。ということで、Aチームの提案は、△△です。以上」
このように発表の仕方を統一することが、“意見そのもの”に焦点を当てて考えることに繋がります。プレゼンの上手い、下手で左右されることがないので、本質的に良い合理的な意見が選ばれやすくなります。
また、このやり方は話合いの道筋通りにメモで記憶されていることを読めばいいだけです。そのため、話しのまとめ方が苦手な人でもスムーズに話すことができます。結果として、プレゼン力も必然的にアップするというわけです。
【事例After】
第二営業部の会議。20名のメンバーは5人のチームに分かれ、それぞれチーム内で売り上げ目標達成のためのアイデアについて話し合っていた。チームに分かれての話し合いが30分経過したころ、総合進行係の近藤が前に出て、話し始めた。
「みなさん、そろそろ時間になりました! 今から、各チーム代表者一名出てきてもらい、チームでまとめた意見を発表してもらいます。発表の仕方は、このように統一してください」と言って、ホワイトボードに例文を書き始めた。
(例)「Aチームの提案は△△です。△△のメリットは、……。デメリットは、……。デメリットの対策は、……。ということで、Aチームの提案は、△△です。以上」
「では、Aチーム代表者から順番にどうぞ」と近藤が言うと、Aチームの代表者、砂原が前に立って話し始めた。
「Aチームの提案は、アポのとれたお客様は、契約率の高い営業マンがプレゼンに行くこと。後の人員は、アポ取りと書類作成とアフターフォローに回ってもらうことです。メリットは、確実に契約をとりやすくなることと、分業で効率が良くなること。デメリットは、プレゼンができる人材が育たないこと。デメリットの対策は、プレゼン研修を一週間に一度行うこと。以上」
砂原が言い終わり、席に着くと、Bチーム代表の三好が前に立って話し始めた。
「Bチームの提案は、忙しいという理由で断られたお客様には、メールかFAX、もしくはDMを発送することです。メリットは、潜在ニーズのあるお客様の取りこぼしがなくなること。デメリットは、発送の処理に手間取って通常営業が滞ること。デメリットの対策は、発送の業務は、内勤のアルバイトさんに頼んで空いた時間に手伝ってもらうこと。以上」
続いてCチームの代表、Dチームの代表が同じように各チームでまとまった決定事項を発表していった。
出たアイデアを参加者全員が見比べ、それぞれ得点をつけて、投票をしていった。結果、Aチームの意見に一番高い得点がつき、決定事項となったのだった。
次回は、「時間管理能力を高める会議」 をお楽しみに!
POINT
・全員がたくさん意見を言えるように、チームに分けて話し合おう
・本質的な意見が選ばれるように、発表の仕方を統一しよう
・プレゼン力を上げるように、会議の道筋で話をまとめよう
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