とある企業のマーケティング戦略会議。そろそろ会議は終わろうというところだった。
「え~では、新しい小冊子の案が無事まとまりましたので、会議はこれにて終了といたします。小冊子作成の担当は、岸リーダーのチームということですが、他のチームのみなさんも岸チームに協力して、デザインなど作成依頼があれば対応してください。では小野さん、今日の会議の議事録の作成をお願いいたします」
進行係の飯沼がそう言うと、会議に参加しているメンバーは次々と立ち上がり、会議室から出て行った。
時間内に会議が終わり、話し合いもスムーズに進んだので、みんな上機嫌で清々しい表情だった。進行係の飯沼も、満足げな表情だ。
「これならきっと今よりもっと良い小冊子ができる。お客様も増えるに違いない。よし、気を取り直して、通常業務に戻るかな!」と確信した飯沼は、そう呟き会議室を後にした。会議室では、議事録作成を命じられた小野が、一生懸命ホワイトボードを見ながらひとりメモをしていた。
「議事録係なんて……最低……また残業決定だわ……」小野は小さくため息をついた。
次の日。
部長の霧島は、飯沼をデスクに呼び出した。
「昨日の小冊子案はうまくまとまったのか?」
霧島の問いに、飯沼は「はい! すごくうまくまとまりました。良い小冊子ができるに違いありません。任せてください!」と、自信満々に答えた。
「そうか、それは良かった。議事録は?」霧島は言った。
「あ、議事録……。小野さんに頼んでいるんですが。ねえ、小野さーん! 昨日の会議の議事録、まだ~?」飯沼は、デスクで仕事中の小野に向かって叫んだ。
「あ、はい、すいません。昨日、緊急でパンフレットの修正がきまして。会議の議事録、今日の夕方……夜までには完成できると思います。」小野は言った。
「え~困るよ。……早めに頼むよ、できたらすぐに部長に渡してね~!」飯沼は言った。
しかし、議事録が部長をはじめ全員に配られたのは、その二日後だった。
議事録が配られたころには、みんな他の業務に精一杯で、会議で話し合った時の情熱や勢いが失われていた。
小冊子作成の担当を任命されたのは、岸リーダー率いるチームだったが、そのチームは現在ユーザーへ配る月刊誌の締切対応に追われていた。
岸チームの新人、小西が
「そういえば、会議で決まった小冊子の作成って、うちのチームの責任担当ですけど、あれはいつまでにやっていけばいいんでしょうか?」とリーダーの岸に尋ねた。
「あっ、そういえばそうだったよね~。すっかり忘れてた。議事録も配られてたね。忙しくて、まだ読んでないけど……。後回し、後回し! 小冊子なんて締切ないし、在庫もまだたくさんあるみたいだし……、しばらく置いといて大丈夫だよ。誰かに『小冊子どうなってる?』って聞かれてから考えよう。とりあえず今は月刊誌の締切り!」岸は焦りながら、そう答えた。
「まぁ、リーダーがそういうのなら、目の前にある締切が優先、優先」
小西は、リーダーの岸に従うだけであった。
このようにして、日々の業務に忙殺され、会議の決定事項は後回しになって忘れ去られていくのだった……。
会議は『会議の目的』が実行されなければ意味がない
会議でいい感じで話がまとまると、それだけで満足してしまう人は案外多いようです。しかし、会議は新しいプロジェクトの始動や、日常業務の問題解決のためにするもので、会議をすること自体が目的ではないはずです。会議がいくらいい感じでまとまっても、会議でまとまったこと(=会議の目的)が実行されなければ、意味がありません。会議の目的を実行させるには、会議終了後のことも考えておくことが、とても重要です。
議事録の効果的な活用法とは?
事例では、議事録がみんなに手渡されたのは、会議から数日後でした。これでは会議の記憶は薄れてしまいます。参加者の熱意やヤル気を保つためにも、議事録はすぐに見られるようにしておかなければいけません。議事録を素早く全員が見られるようにするためには、ある道具を活用します。
それは『デジカメ』です。会議中に出た意見を書いたメモは、すべてデジカメで撮影しておきます。そして、そのデータを時系列で共有フォルダに保存し、対象者に伝えるのです。すると、いちいち手間をかけて議事録を作成する必要もありませんし、すぐに誰でも閲覧ができます。手間をかける分、時間が無駄というだけではなく、議事録を作成する人の思いや考えに沿って書きまとめられる傾向もあります。
また、やむをえず会議を欠席した人にも、「どういう経緯で話し合われたのか?」も含めて理解してもらうことができます。
欠席者への対応も大切です。欠席者には議事録を渡すだけでは、解釈がズレたり勘違いして伝わってしまう可能性もあります。そこで、議事録係は欠席者に会議の内容を説明するようにします。そして、説明された欠席者は、進行係に会議の内容を説明します。こうすると欠席者にも解釈がズレることなく伝わります。また、こうして手間暇かけることで、欠席者に「いろんな人に迷惑がかかるから、次からは仕事上緊急性のない用事でないかぎり、会議は欠席しないようにしよう」という意識を持ってもらうことができます。
決定事項の進捗管理の方法についても決めておく
会議の目的を達成させるには、会議終了後、『決定事項の進捗管理』が必要になります。「誰が進捗管理をするのか?」「どのような方法で進捗管理をするのか?」も会議中にしっかり決めておきましょう。また、「進捗が遅れないようにするための対策」も考えておきます。進捗報告会を事前に設定しておくのもアリですが、その場合はただの報告会にするのではなく、『進捗が遅れている場合の策』を考える会議にしましょう。ただの報告会なら、わざわざ全員を集めて会議をする必要はありません。メール報告などでも事足ります。
「新しい小冊子の案が無事まとまりました。小冊子作成の責任担当は岸リーダーのチームということですが、他のチームのみなさんも岸チームに協力して、デザインなど作成依頼があれば対応してください。太田さんは、進捗管理をお願いいたします」
進行係の飯沼が言った。
「はい、その進捗管理というのは、具体的にどのようにすればいいでしょう?」と、進捗管理を任命された太田が尋ねた。
「どのページをいつまでに進めるか、表を作成して、それに沿って進めていってください。進捗遅延の対策会議は予備として2週間後18日10時からです。しかし、進捗の遅れがないように、みなさん、よろしいですね?」
岸がそう言うと、参加者はみんな頷いた。
「では、小野さん、議事録作成は共有フォルダへ今から2時間以内の16時までにお願いします。これで会議を終了いたします」
議事録作成を任命された小野は、デジカメでホワイトボードを撮影し始めた。
議事録は、その日の16時までに共有フォルダに入れられ、参加者全員が閲覧できた。
そして、進捗管理表も作成され、新しい小冊子の作成は忘れ去られることなく実行されていったのであった。
次回は、「対人応対力を向上させる」会議(前編) です。お楽しみに!
POINT
・議事録はデジカメで撮影し、対象者がすぐに見られるようにしよう
・進捗管理の方法や進捗が遅れた場合の対策についても会議内で決めておこう
・欠席者への対応も怠らず、欠席者を出さない工夫をしよう
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