とある企業のマーケティング部内の戦略会議。売り上げアップのための新しいサービス展開について話し合いが行われており、会議はそろそろ終盤に差し掛かっていた。
進行係の大原が、ホワイトボードに書かれた多種多様な意見を眺めながら、こう言った。「……たくさんアイデアが出揃いましたね。時間もあるので、そろそろ決定事項をまとめたいと思います。多数決で、上位2つを今期の戦略として実行したいと思います。」
ホワイトボードには、以下のようなアイデアが残されていた。
・Webデザインを一新する
・応募者全員プレゼントを実施する
・メルマガを二週間に一回配信する
・公式LINEをスタートさせる
・モニターを募集し、レポートを書いてもらい、それを配信する
・小冊子を発売する
・ゲストを招いての講演会を実施する
「……順にアイデアを読み上げていきますので、良いと思ったアイデアひとつに挙手をお願いします。」大原がそう言うと、「え~ひとつだけ……」「どうしよう……」と戸惑う声が会議メンバー数名から聞こえ、場が少しざわついた。
大原は順にアイデアを読み上げていった。
結果、『Webデザインを一新する』と『公式Lineをスタートさせる』そして『ゲストを招いての講演会を実施する』が同票数になった。
会議はあと10分で終了という時間帯だった。
「え~同票が3つ……! 困りましたね。どうしましょう。どうしようかな……」大原が戸惑っていると、後ろの方で会議を静観していたマーケティング部長の佐々木が口を開いた。
「今回は『ゲストを招いての講演会』でいいんじゃないか? Webデザインを一新するのは、ちょっと時間と手間がかかりすぎるから今期中は難しいだろう。講演会なら、がんばれば今期中に実践できるし、会社としてもやっておきたい取り組みだ。後は、『公式Lineをスタートさせる』だな。時代の流れには早くついていかないとな。公式LineはN社ももう取り入れているということだし……。というわけで、この2つに決定でいいな!」
「……え~、佐々木部長がこうおっしゃっていますし……、みなさん、いいですか?」
大原は会議のメンバーを見渡した。みんな押し黙っており、目は下を向き顔をあげるものもいない。
「……では、佐々木部長のおっしゃるように、『ゲストを招いての講演会』と『公式Lineをスタートさせる』ということに決定! それでは、今日はこれで会議を終了します。次回は、3日後10日15時からになります。この2つの決定事項の中身をどんなものにするか案を出しておいてください。」
大原がそう言うと、佐々木部長は早々に立ち上がり部屋を後にした。
進行係を任されていた大原は、会議を時間内に終わらせることができてホッとしていたが、会議メンバーからは、「あ~あ、講演会とか……どちらかというと営業部の仕事じゃん?」「本当に部長はいつも強引だよなあ~」「結局、最後は部長が決めるんじゃ、話し合いの意味ないよなあ~」など不満の声が囁かれていた。
会議の結論は“納得感”が大事
さんざん話し合ったのに、最後は役職者などお偉いさんの一言で決められたり、進行係が強引に決定事項をまとめる……このような会議はとても多いです。「終わりよければすべてよし」という言葉もあります。しかし、会議においても決定事項のまとめ方はとても大事です。素晴らしいアイデアがたくさん出て会議が盛り上がっても、決定事項が納得感の低いものだと、後から不平不満を言う人が多くなります。会議で決定事項をまとめるとき、事例のように多数決をとる企業は多いでしょう。多数決はメンバーの意見をもっとも反映できるやり方ではありますが、「挙手」となると、内容を十分に吟味できなかったり、周りの目が気になって本当に良いと思うアイデアに手を挙げられなかったり、少数意見には手を挙げづらくなってしまうことも有り得ます。
ましてや、「ひとつだけ」選ぶとなると、迷いが生じたり、決断に時間がかかってしまって当然です。
より納得感の高い会議にするために、“得点制”にします。出たアイデアを、ひとつひとつ良い点・悪い点・改善点の観点から各自が吟味し、最適だと思うアイデアから順に高い点数をつけていくのです。
各アイデアに得点をつける
得点をつけていくには、細長い付箋紙を準備します。付箋紙には、名前と得点を記入します。(名前を一枚一枚書かなくて済むように、印鑑を用意しておくと便利です。)得点の付け方は、1点、3点、5点、7点、9点、11点、13点…と、点数に少し差をつけておきます。このほうが意見の優劣をはっきりつけることができるからです。
たとえば、アイデアが10個ある場合は、10枚の得点用紙を用意します。3個ぐらいのアイデアの場合は、1点、5点、10点と点数の差を大きくしておくと最終決定が下しやすくなります。
なお、「同点になってしまったときはどうするか」というのを投票前にあらかじめ決めておくことも必要です。「もし、同点になったら、『高得点の得票数が多い方』を1位にする」などと決めておけばよいでしょう。
得点の書いた付箋紙を各自貼っていく
出されたアイデアと、その良い点・悪い点・改善点などを書いたシートを、床の上に置きます。そして、メンバー全員が上から全体を眺め、それぞれ得点の書いた付箋紙を貼っていきます。そして、進行係とメモ係で集計し、決定事項をまとめます。どのアイデアにも得点を入れていく仕組みなので、決定事項は“他人が決めたこと”ではなく“自分で決めたこと”という意識になります。また、自分が高得点をつけたものが選ばれなくても、それは今回たまたま優先順位が低かっただけなので、どのアイデアが選ばれても比較的納得感が高くなります。
このようなやり方を会議で癖づけると、会議ではない場面でなにかを決定しなければならないときも、一人会議を行い、冷静に優先順位で考えて結論を出すことができるようになります。ゆえに、決断力がおのずと磨かれていくというわけです。
【事例after】
「え~そろそろ決定事項をまとめたいと思います。最初にお配りしていた付箋紙に、1点、3点、5点、7点、9点、11点、13点と記入し、署名をお願いします。こちらのアイデアの書いた紙を床に置きますので、みなさん得点を書いた紙をそれぞれのアイデアの横に貼っていってください。上位2つを決定事項とします。アイデアが同点になった場合は、高得点の得票数が多い方に決定します。」
そう言って進行係の大原は、各アイデアと良い点・悪い点・改善点を書いた紙を床に並べ置いた。
会議の参加メンバーは得点の書いた付箋紙を手に立ち上がり、冷静に上から眺め、それぞれ得点が書かれた付箋紙をアイデアの横に貼っていった。
全員が貼り終わり、席に着いたところで、進行係の大原とメモ係の山口は集計を開始した。
「……発表します。一番得点の高かったものは、『応募者全員プレゼント』でした。二番目に高かったのは『公式Lineをスタートさせる』です。よろしいでしょうか?」
参加者メンバー全員が、納得感の高い満足気な表情で頷いた。
次回は、「プレゼンテーション力を向上させる」会議です。お楽しみに!
POINT
・参加者の“納得感”を大事にする工夫をしよう
・得点用紙(付箋紙)を用意して、優先順位をつけよう
・冷静に俯瞰して考えられる環境を作ろう
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