月曜の朝。経営企画部の岡上部長に内線電話が鳴った。
「ちょっと、会議室へ」電話の主は、社長の藤田であった。
「なんでしょうか?今から、急ぎの仕事なんですけど」と岡上が言い終わらないうちに、社長からの内線電話は切られた。会議室へ向かいながら、岡上は「まったく、月曜の朝から…この忙しいときに自分勝手な社長だわ!」と周囲に聞こえるように言い放った。
コンコンとノックをして会議室へ入ると、営業部長の池本と水田、そして経理部の伊達部長とお局社員の大川課長もいた。
「よし、全員揃ったな。では会議を始めよう。売上がちょっと下降気味だ。営業部はもっと外に出てもらいたい。そこで営業部のサポートを、内勤スタッフに頼もうと思っている」という社長の話に、お局の大川が「経理部は十分サポートしてますよ!」と言いながら、チラッと岡上を見た。
「うちの経営企画部だって夜遅くまでサポートしてますよ!各営業部のミスをフォローして業務の改善を進めていますし」と言いながら、岡上も大川に目を向けた。
ふたりの視線がぶつかりあった。
「まぁまぁ、そういうことじゃなく、お互いにサポートしあってだね…」と言う社長に、「社長!だったら、具体的におっしゃってくださいませんか?何をどうするのか!協力しないで文句ばっかり言ってるのは、経理部ですよね!営業部の仕事が捗るように業務改善しているのに、経理は協力どころか邪魔ばっかりで!だいたい、経理部は…」と岡上は熱くなって言い返した。
とそこに、内線電話のベルが鳴った。「あ、ちょっと待ってくれ」と社長は言い、電話を受け、会議は一時中断となった。
…よくある、ちょっとした打ち合わせや会議のシーンですね。
経営者や管理職など立場が上の人間が、一方的に呼び出し、メンバーを集める会議。ここまでひどくはなくても、似たような経験をしたことがあるのでは?
こんな会議では、多くの人が『無駄な時間』と思ってしまっても仕方ありません。
会議が無駄な時間になってしまうのは、やり方に問題があるからです。会議は、活用の仕方をちょっと工夫するだけで、とんでもない益を生むことをご存知でしょうか?
会議を開催するなら最低限やっておくべきこと…「目的」「目標」「時間」
まず、会議を開催しようと思ったら、“会議ではない方法”を考えることが必要です。考えたうえで、本当に会議を開催するしか手法がなければ、会議を開くのです。そのためには、主催者は、「何のために会議を開くのか」という目的をはっきりさせます。そして、「その会議を終えた時、どうなっているのか」という目標も明確にします。
事例では、藤田社長の思いつきで会議を開催して、ほぼ強制的に参加者を集合させています。参加者それぞれが、業務の予定を立てている場合、よほどの緊急性があるものを除いて、会議で予定を狂わされるのは迷惑な話です。しかも、会議の目的も目標もまったく見えていないので、各自がブツブツ文句を言い、険悪な雰囲気になっています。
藤田社長が言いたかったことは、「売上がちょっと下降気味なので、営業部にもっと外に出てもらいたい。そこで営業部のサポートを内勤スタッフに頼みたい」ということですが、それであれば、わざわざ人を集めなくても済む方法があったかもしれません。たとえば、「来週月曜の朝9時までにメールにて提案を頼みたいことがある。売上が下降気味のため、営業部はもっと外に出てもらいたい。そこで営業部のサポートを内勤スタッフに頼みたいが、各部署でサポートできるアイデアを3個以上考えるように」ということを各自にメール等で知らせれば、会議は行わずに済みました。
ただの報告会やアイデア出しであれば、皆が一堂に集まる必要はないのです。
いろんな立場の人間のいろんなアイデアを持ち寄って、あれこれ検討してみんなが納得いくように決めたいこというのであれば、会議の開催はやむを得ないでしょう。
それなら、会議主催者は前もって「来週月曜の朝9時より会議。目的は、売上が下降気味につき、営業部に外に出てもらうため。目標は、内勤スタッフが行える営業部のサポートのアイデアを3個以上決めること」と会議開催の目的・目標に加え、時間表なども事前に通達する必要があります。そうすれば、社員も前もって心の準備ができますし、険悪な雰囲気になることなく、話し合いができるでしょう。
しかし、これだけだと不十分です。
会議をもっとより良い「個人と組織の成果と成長を促す」時間にするために、『会議の役割』についても考える必要があります。
会議の役割は、話し合いだけにあらず
「会議の役割?そんなことは考えたこともない」と言われる人がほとんどかもしれません。ただ、伝達事項を一斉にするためだけの会議。
ただ、意見を収集するだけの会議。
ただ、何かを決定させるためだけの会議。
組織によっては、できていない人や部署をこき下ろすために会議が行われているかもしれません。
これらの会議は、目的・目標が明確で事前に計画が立てられていても、会議の時間を有効に活用できていない『普通の会議』です。
どうせなら会議を使って、人と組織が成果を出し、成長し続ける時間にしてみてはいかがでしょうか?会議の時間を、本当の意味で『有効な時間』にするのです。
会議は、人と組織が成果を出して成長させるための“ツール(道具)”です。道具は、どう活用するかが重要です。
包丁を「人を傷つけるもの」にするか、「料理を作るために使うもの」にするか、「おいしい料理で人を幸せにするもの」にするかは、使い方次第ですよね。同様に会議も、活用の仕方次第なのです。
会議は、活用の仕方によって、「無駄な時間」にもなるし、「普通の時間」にもなるし、「人財育成ができる効率的で効果的な時間」にもなるのです。
会議には、
「参加意識を向上させる」活用方法もあります。
「自律型人財が育成される」活用方法もあります。
「まとめる力を向上させる」活用方法もあります。
「批判的思考力(クリティカルシンキング)を向上させる」活用方法もあります。
「リスク管理・危機管理力を向上させる」活用方法もあります。
「決断力を向上させる」活用方法もあります。
「プレゼンテーション力を向上させる」活用方法もあります。
「時間管理力を向上させる」活用方法もあります。
「工夫力を向上させる」活用方法もあります。
「対人応対力を向上させる」活用方法もあります。
次回より、人と組織が成果を出し成長し続ける会議にするために、従来の会議の手法を忘れ去り、固定概念を捨て、落としどころをさがさない、上げどころをさがす会議の進め方をお伝えしていきます。これから提案していく会議を実践すれば、話し合いが効率よく進み意見がまとまるだけでなく、より素晴らしい結果を残していくことができるでしょう。会議の時間を有効活用する、”人財育成”をお楽しみに!
次回は、「参加意識を向上させる」会議についてです。
POINT
・会議を開催するなら、まず「会議ではない方法」を考えよう
・会議が最善の方法であるのなら、「目的」「目標」「時間」を明確にし、参加者に伝達しよう
・会議の役割は、組織と人を成長させることであることを理解しよう
- 1