林野 宏 氏
1942年京都府生まれ。1965年埼玉大学文理学部卒業後、西武百貨店に入社。1982年西武クレジット(現クレディセゾン)へクレジット本部営業企画部長として転籍。2000年より現職。 「サービス先端企業」として、サインレス決済や永久不滅ポイントなど、業界の常識を覆すイノベーションで競争優位を確立。これまでの経験からビジネスの能力を示す新たな指標「BQ」(ビジネス感度)を考案し、著書「BQ~次代を生き抜く新しい能力~」を出版。
21世紀はアジアの世紀か?
まずは1500年代以降の覇権国家とその投機対象を見てみましょう。1588年まではスペイン(価格革命)、1630年代はオランダ(チューリップ球根)、1720年頃はフランス(ミシシッピ会社)、1840年代はイギリス(鉄道株)、1929年はアメリカ(株式)、1989年は日本(土地・株式)、2007年はアメリカ(不動産)と続きます。ここからわかるのは、バブルが起きたときに覇権が移るということ。つまり今後は、中国(不動産)やインド(IT関連)でバブルが発生する可能性があり、アメリカ・日本・中国・インドのいずれかに覇権移行のチャンスがあるわけです。とは言っても、もはや日本はその可能性が低くなっており、そのチャンスを取り返すのは、私たち自身だと思います。一方で、ASEAN10カ国の経済指標を見てみると、例えばフィリピンは人口が1億人を超え、GDPは2993億ドル、成長率は6.0%、そして平均年齢はなんと22歳。日本の平均年齢が45歳ですから、いかに若いかがわかります。ASEAN10カ国の総人口はおよそ6億3000万人と、日本の5倍。GDPも日本の60%まで上昇し、さらに勢いを増しています。
日本と英国の共通性
世界地図を見てもわかるように、ヨーロッパ大陸における英国のポジションと、アジア大陸における日本のポジションは非常によく似ています。19世紀に世界を制覇した英国は、上手にマネジメントしたことで、いまだにカナダやオーストラリア、インド、ニュージーランドなどの大英国圏をつくっていますが、同じ見方をすれば、アジアのポテンシャルが高まっている今、日本は地理的に優位にあると言えるでしょう。日・米・中・韓・ASEANのGDP、貿易依存度の推移
日・米・中・韓・ASEANのGDPの推移を見比べると、日本がいかに停滞しているかがわかります。また経済成長率は1955年から1975年までの20年間で8.4%成長し、1975年から1995年までの20年間で4%、そして1995年から2015年までの20年間はわずか1%と、この20年の間に生まれ育った人たちが夢も希望も持てるはずがありません。2001年から2013年までの貿易依存度を見てみると、対日本については、アメリカが10%→5%、中国が17%→8%、韓国が15%→9%、ASEANが16%→9%と、軒並み減少し、その間の貿易総額は、日本が7527億ドルから15483億ドルと約2倍になったのに対して、ASEANは約3倍、韓国は約5倍、中国に至っては約8倍となっています。こうした数字を見れば、中国や韓国が日本を相手にしない理由も理解できます。
日本企業のモデルチェンジ①
我が国の企業は、20世紀に成功した大きな組織やそれを動かしてきた人材のリタイヤ・陳腐化が進んでいますが、このままでは将来像が描けないところまできました。そうした中、海外戦略はASEANをメインターゲットにすべきではないでしょうか。もちろん中国やインドをターゲットにすることができれば、それに越したことはありませんが、かなり難しいと言えます。中国やインドはグローバルな競争が激化していると同時に、特に中国の政治・経済体制とも、我々の価値観が通用しなかったり、規制やルールが都合よく改定されるケースが頻繁です。重要なことは、ASEANの日本もしくは日本人に対する親近感。また、日本企業が戦後70年間築き上げてきた二次産業・サービス産業のノウハウ・商品・サービスに対する高い評価や、日本ブランドへの高い信頼性は、得難い価値を持ち、欧米中韓企業との競争には効果的です。日本企業のモデルチェンジ②
国内の過当競争市場において消耗戦をやっていては、十分な利益を確保することはできないため、企業や事業の統合を含めた消耗戦の回避が必要でしょう。競争相手と組むこと、M&Aを活用すること、提携相手を探ることが、その対応です。つまり、日本企業が過去に成功を収めてきた「自前主義」からの脱却および「タブーへの挑戦」が必要になってきました。さらに価値設計をする際の機能や性能、そして価格にこだわる戦略は、時代遅れであり、感性を中心に新しい価値設計をする必要があります。海外展開する際にも、日本のモデルを押し付けずに、相互対話や現地・現場の人の意見が経営に十分反映される仕組みづくりが大切です。そして企業は「イノベーション」に常にチャレンジしなくてはなりません。自信を取り戻して、「未知の国」の「未知の顧客」と共同事業をなすべき。これこそビジネスの醍醐味ではないでしょうか。
クレディセゾンの海外事業 ~経営戦略
私たちは“Neo Finance Company In Asia”をテーマに、カードビジネス、ネットビジネス、ファイナンスビジネス、ソリューションビジネス、Investment資産運用ビジネス、Global Asiaビジネスを通じて、アジアにおいて他にない新たなファイナンスカンパニーへ挑戦していきます。そのためにまず実践しているのが、戦略的ベンチャー投資による将来の収益基盤の構築です。ベンチャーファンドへの出資、さらに子会社SAISON Venturesを作り、シード・アーリー企業に投資するなど、多くのアライアンス企業とネットワークを構築し、共同でさまざまな事業、オープンイノベーションを進めています。海外事業方針としては、現地企業との業務提携等による事業参入のうえ、マーケットや小売提携先の戦略に応じて、提携クレジットカード・プリペイドカードなどの商品開発、販促、運営サポート等のソフトを提供。これまで日本で培ってきた提携カード戦略、会員獲得、利用活性、データマーケティングなどのノウハウを活用しています。
海外事業の状況としては、現在中国(上海)、ベトナム(ハノイ、ホーチミン)、インドネシア(ジャカルタ)、シンガポール、カンボジアに海外拠点を展開。さらにフィリピン、マレーシア、タイ、ミャンマー、インドでもプロジェクトを進行中です。
具体的な事業展開のご紹介① ~ベトナム~
ベトナム全土で220以上の支店、3000以上のサービス拠点ネットワークを保有している、総資産約2500億円の銀行・HD Bankと包括的資本提携し、傘下のファイナンス会社「HD Finance Company」に出資。社名を「HD SASON Finance Company」に変更して、合弁運営を始めました。HD Bankおよび当社が持つ、ノウハウ、リソース、ネットワーク等の活用による協業シナジーを最大化。既存事業である、二輪車ローン、家電用ローン、貸付ローンの事業拡大のために、日系企業へのアプローチと新事業(クレジットカード・プリペイドカード)開始に向けた共同推進を行っています。具体的な事業展開のご紹介② ~インドネシア~
インドネシア中堅財閥Modern Groupの中核会社であるモダン・インターナショナルと合弁会社「Saison Modern Finance」を設立しました。モダン・インターナショナル社は、富士フィルムの独占販売代理店として急成長している会社で、2009年からセブンイレブン事業を始めたほか、流通・販売事業(医療機器・印刷機器等)も手掛けています。そんな同社の保有するチャネル(セブンイレブン・インドネシア)を最大限に活用して、ハウスプリペイドカード事業を推進。またセブンイレブンの店舗設備のリース事業など新規領域への事業多角化を進め、リテール分野のマルチファイナンス会社No.1を目指します。具体的な事業展開のご紹介③ ~シンガポール~
2014年、当社で初となる東南アジアのスタートアップ企業への直接投資として、バーチャルプリペイドカード事業の「Matchmove Pay」に出資。「Matchmove Pay」は、アメリカン・エキスプレスとのライセンス契約によるバーチャルプリペイドカードの発行とともに、東南アジアを中心に銀行、携帯キャリア、リテールやEC事業者などと提携し、バーチャルブランドプリペイドカードのソフトウェアライセンスサービス(SaaS)の提供事業を開始しています。取締役の派遣により両社の相互サポート体制を構築し、成長促進と事業シナジーを追及していきます。さらに東南アジアへの事業参入を加速させるとともに、国内外におけるプリペイドカード先端企業としての事業強化を目指します。
クレディセゾンのご紹介
当社は2012年、独自性のある戦略によって競争に成功した日本企業や事業部を表彰する「ポーター賞」を受賞しました。年会費無料カード、即発行・即利用のカード発行体制、スーパー食品売場の「サイレンス取引」、期限を撤廃した「永久不滅ポイント」、ポイントサイト「永久不滅.com」、セゾン・アメリカン・エキスプレス・カード発行…など、私たちがクレジットカード業界で起こしてきた多くのイノベーションと、これまでの活動が評価された形です。では最後に少し宣伝をさせていただきます。推奨商品である「Saison American Express Card」は、PLATINUM(年会費:20000円)、GOLD(年会費:10000円)、BLUE(年会費:3000円)、PEARL(年会費:1000円)の4種類。豊富な特典を揃えたAmerican Expressブランドのカードが、リーズナブルな年会費で手に入ります。皆様もぜひ、この機会にご活用ください。本日は最後までお聞きいただき、誠にありがとうございました。
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