タレントマネジメントを活用して生産年齢人口の減少に備えよ
なぜ、これからタレントマネジメントが求められるのか。その大きな要素の1つとして、人口減少問題があることを指摘しておきたいと思います。総務省がこのほど公表した2014年10月1日時点の人口推計によると、総人口は前年に比べて21万5000人少ない1億2708万3000人となり、4年連続で減少していることが明らかになりました。高齢化が進み、亡くなる人が増える一方、生まれてくる子どもの数が減っているため、差し引きで人口が減っているのです。
この傾向は今後も続きそうで、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、2060年の総人口は約8700万人になると予測しています。
こうした中で、私がとくに注目しているのは、労働力の中核となる15~64歳の生産年齢人口の減少です。前述した総務省の最新の人口推計では、前年に比べて116万人減の7785万人となり、総人口に占める割合は61.3%となっています。この割合は1993年以降、徐々に低下し続けており、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、2060年には50%になると予測しています。
生産年齢人口が減少すれば、当然ながら労働力も不足します。この労働力不足に対処するためには、「元気な高齢者にも意欲や能力に応じて働ける環境づくりを行う」「働きながら子育てしやすい環境を整備するなどして女性の力をもっと生かす」「移民などの外国人労働力を活用できる環境づくりを行う」といった方法が考えられます。
こうした施策については、行政も企業もこれから真剣に取り組んでいく必要があるでしょう。ただ、それらの施策とともに私が強調しておきたいのは、とりわけ企業が生産年齢人口の減少に対して取り組むべきこととして、自らの現有社員の生産性を上げる努力をすべきではないかという点です。
では、現有社員の生産性を上げるために効果的な方法は何か。その重要な要素の1つが、まさしくタレントマネジメントです。タレントマネジメントはその名の通り、社員の能力(タレント)を有効活用できるようにマネジメントするものですが、経営の観点からすると、その最大の目的は社員個々の能力を引き出すことによって組織全体の生産性をを上げることにあります。私はこれを「組織全体のパワーの底上げ」と言っていますが、これこそがタレントマネジメントの本質です。
ただし、社員個々の能力を引き出して組織全体のパワーを底上げするためには、企業として取り組まなければならない不可欠な要素があります。それは、それぞれの業務において「ジョブディスクリプション(職務内容記述書)」や「ロールディスクリプション(役割内容記述書)」、およびそれらに適用する「コンピテンシー(能力・資格・適性)リスト」や「プロシージャ(処理手続き)」を整備することです。
逆に言えば、これらがきちんと整備されていることが、タレントマネジメントの大前提となるのです。すでに世界のエクセレントカンパニーと呼ばれる企業は、こうした整備を行ったうえでタレントマネジメントツールをフル活用しています。
重ねて強調しておきたいのは、こうした整備が必要なのは、社員個々の能力を引き出して組織全体のパワーを底上げするためです。なぜ、この点を強調するかというと、日本企業の場合、社員個々の能力を引き出して組織全体のパワーを底上げするというより、ひと握りの優秀な人材を育てて組織運営を任せてしまう傾向が強いように見受けられるからです。
もし、ひと握りの優秀な人材に組織運営を任せるのならば、前述したジョブディスクリプションやロールディスクリプション、さらにコンピテンシーリストやプロシージャといったものをきちんと整備しても意味がありません。これらを整備するのは、誰がどの業務を担っても、その業務におけるジョブディスクリプションなどに則って作業を行えば、一定水準の業務をこなせるようにするためです。つまり、人材を容易に入れ替えできるようにするのが、組織全体のパワーを底上げすることになるのです。
人材を容易に入れ替えできるようにするというと、日本ではネガティブに受け取られがちですが、米国などではローテーションからキャリアアップにつながるとポジティブに受け取られる印象があります。日本でもこうしたとらえ方を醸成すべきではないでしょうか。
ジョブディスクリプションなどの仕組みを整備してタレントマネジメントをフル活用し、組織全体のパワーを底上げしていくことが、これから生産年齢人口が減少していく中で、企業にとっては非常に重要な取り組みになってくると、私は考えています。
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