グローバル人材とは?
ICT (Information and communications technology)やIoT (Internet of Things)などの技術革新に伴い市場のボーダーレス化がますます加速していく中、企業が成長を続けるためには事業のグローバル展開は避けて通れない。その中で「グローバル人材」というテーマが現れ、各企業はもちろん経済産業省や文部科学省においてもその育成推進に取り組んでいるのは周知の通りである。経団連が今年3月に発表した「グローバル人材の育成・活用に向けて求められる取り組みに関するアンケート結果」のなかに興味深いデータがある。グローバル経営を進める上での課題として挙げられた上位3項目が、「本社でのグローバル人材育成が海外事業展開のスピードに追いついてない」(63%)、「経営幹部層におけるグローバルに活躍できる人材不足」(55%)、「海外拠点の幹部層の確保・定着」(47%)であった。
これは本社と海外各拠点の両方においてグローバル経営を推し進めるリーダーがいないこと、またその育成のスピードが間に合っていないということを意味している。
もうひとつのデータは、グローバル事業で活躍する人材に求められる素質、知識・能力についての結果である。上位5項目を見ると、「海外との社会・文化、価値観の差に興味・関心を持ち、柔軟に対応する姿勢」(76%)、「既成概念にとらわれず、チャレンジ精神を持ち続ける」(58%)、「英語をはじめ外国語によるコミュニケーション能力」(47%)、「グローバルな視点と国籍、文化、価値観、宗教等の差を踏まえたマネジメント能力」(44%)、「企業の発展のために、逆境に耐え、粘り強く取り組む」(43%)となる。
この求められる資質や能力はグローバル事業で活躍する人材に限らない、ということに気づくであろう。「海外との社会・文化、価値観の差に興味・関心を持ち、柔軟に対応する姿勢」は「顧客や社員の価値観の違いに関心を持ち柔軟に対応する力」であり、「英語をはじめ外国語によるコミュニケーション能力」は「言語・非言語を通じたコミュニケーション力」と言い換えることができるのだ。
最も重要なポイントは、「グローバル事業で活躍する人材」「国内事業(非グローバル事業?)で活躍する人材」という区分は、経営そのものがグローバル化していく中で、そもそも意味がないということである。多くの企業はそのことに気づいていると推察できるが、一方で取り組まれている施策を見たときに、まだその気づきはアクションに反映されていない企業が多いのが現実のように思われる。
国内外を問わず共通に求められるのは「真のリーダーシップ」
先のアンケート結果からも、グローバル経営の推進を実行するリーダーの不足は明らかである。事業活動のグローバル化が「グローバル人材」という言葉を生んでいるのと同様に「グローバルリーダー」というテーマも頻繁に取り上げられる。そしてその育成が官民あげての話題となる中、見落とされがちと感じるのは「真のリーダーシップ」についてである。ここで、グローバルという単語を一旦脇へやってみた時、日本の企業の国内の経営におけるリーダーシップの現状はどうなのだろうか?日本の企業の経営幹部、あるいは現場のチームを束ねるマネジャーは、「顧客や社員の価値観の違いに関心を持ち柔軟に対応する力」や「言語・非言語を通じたコミュニケーション力」などの優れたリーダーシップを発揮しているのだろうか?あるいは、現状そのレベルに至らなくとも、そうした行動が求められ、また個々人が自らも学びながら、そのようなリーダーシップを身につけようと切磋琢磨する状況を、どれくらいの企業が作れているのだろうか?
私が過去14年間に渡り複数の欧米グローバル企業の日本法人において人事責任者の仕事に携わってきた経験から言うと、グローバルのステージでビジネスを推進できる人材を作ることは、すなわち「真のリーダーシップ」を育てることに他ならない。
「メンバー全員にリーダーシップが求められること」
「リーダーシップのスタイルに国境はないこと」
「そのリーダーシップは特別な人のみに存在するのでなく、誰もが習得できるものであること」
私たちがまず取り組むべきは、組織の現場において「真のリーダーシップ」を育てることであり、それこそが「世界に通用するリーダーシップをつくる」ことであり、日本の企業がグローバル経営を推進していく上で欠かせない人材を生み出していくことにつながるものとなる。
ただし、日本における様々な状況は、真のリーダーシップの養成を困難なものにしてしまっているという現実がある。私たちに求められているのは、その状況を正しく診断し、適切な処方箋をもって、勇気と創意をもって自らそれらに切り込み、関与するあらゆる人々に対応を促すことである。
- 1