第4回はそのエピソードを紹介しながら、スタートアップ企業が大企業出身者を受け入れ“活躍支援”をしていくための指南書・予備知識についてお話しします。
第1回から読む▶【1】“スタートアップ企業”へ転職したい大企業出身者が増加!?人材の流動化が進んでいるワケ
年末調整で大企業出身者が“吠えた”
冒頭のAさんによると、年末調整に必要な書類回収で困っているということです。その年に中途入社したBさんの提出物で足りないものがあり、その提出をBさんにお願いしたところ「前職では一度も言われたことはない」と譲らず、年調業務が完了せず困ってると言います。Aさんが社会保険労務士の事務所に確認すると、やはり“その資料は必要”ということがわかりました。再度、事実を伝えて提出をお願いに行きました。
すると「前職は〇〇(大企業)なので間違えるわけない。社労士がおかしいのでは?」と、感情的にすごまれてしまいました。私が聞いた限り、総務人事担当のAさんの主張が正しいことは明らかです。
たまたま、私はBさんと入社直後に雑談をしたことがあったこともあり、その交渉を肩代わりしました。社内で不機嫌な表情で仕事をしていたBさんの横に立膝をつき、殿様に従う忍者のような姿勢で寄り添いました。そして下から見上げるようにBさんに「年末調整の話をAさんから伺ったんですが……」と、話しかけました。
当然ながら、Bさんはぎょっとするわけです。そこで「あ、あぁ…」というBさんの声に被せるように「結論から言いますと、Bさんの前職の〇〇会社様、理由はわかりませんが処理が間違っていたようです。私もこれまで何十社も担当してきているので間違いありません。大きな会社様ですから外部から調査を入れても細部までチェックができないこともあります。もしかしたら、業務の引継ぎなどのときに間違えたままになっているのかもしれません。でも、どうしても腑に落ちなければ社労士事務所の代表の先生に今ここで電話をかけてみますが」と一気にお伝えしました。
Bさんは「いや、そこまで言うのなら、わかりました。資料を取り寄せます」と納得してくださいました。
「そんなことで感情的にならないで欲しい」のが本音
少々強引なやり方で、Bさんには申し訳なかったのですが、このようないさかいに対処する場面はよくあります。また、年末調整業務は、税制改正の影響で毎年変わります。そういう時、スタートアップ企業では「そんなことくらい」と担当者に噛みついたりせずに「前職では出す必要なかったけど、まずは確認してみますね」と素早く対応して頂けないと困ってしまいます。
Aさんも年末調整だけを仕事にしているわけではないのです。総務や経理、人事などあまたの仕事を抱えています。自分の主張のみで、人の仕事を止めるような人がいると業務が滞ります。そして、何よりBさんの威嚇によってAさんが離職してしまうことになったらそれこそ一大事です。
スタートアップ企業にいる以上、Bさんも「自分には関係ないから」というセクショナリズムな態度では困ります。スタートアップ企業は、「時間内に結果を出せるか」が勝負の世界です。社員一人の離職は会社全体のスピードをものすごく鈍化させることにつながります。一人の採用がより成功に近づかせ、一人の離職がより成功から遠ざけるのです。
社員同士で理解が合わないに時には「妥協点を見つける」コミュニケーションや動きを全員がとれないと成功はまずありません。この点がスタートアップ企業と大企業との大きな違いです。
代わりのいる大企業と違って、スタートアップは代わりがいません。Bさんの立場からすれば、年末調整の処理など「そんなことくらい」かもしれません。自分の手を煩わせずに、総務でうまく処理をしてほしいと思っていたかもしれません。
「そんなことくらい自分で」という大企業出身者も多い
もちろん、多くの転職組は「これからは『そんなことくらいのこと』は自分でやらないとだめだね」と柔軟に頭を切り替えています。そうでなければ、スタートアップ企業には馴染めないことを理解しているのです。走りながら考えるのが当たり前のスタートアップでは、ゴミ捨てやトイレ掃除、宅配便の発送/受け取り、名刺手配など……。皆がそれぞれ積極的に動いている会社の方が多いのではないでしょうか。「そんなことくらい」誰かやってくれないかなということは、基本的に自分でするというのが当たり前です。
もし社内で「そんなことくらい」を不満に思い、イライラしている大企業出身者の方がいたら、人事部門だけで解決する必要はありません。
「そんなことくらい」を楽しんで働く大企業出身者に相談して、協力してもらいましょう。そして、皆で「そんなことくらいで揉めないで今この場ですぐ解決しましょう」という気運が高まれば、不満や衝突は減ってきます。
<後日談ですが……>
実際にBさんが以前お勤めだった会社では、その後、労務で重大な事件が起きました。
たとえ大企業であっても社内外のチェックや審査が形骸化していることもあるのです。むしろ、反対にスタートアップ企業でIPOの準備段階に入っている会社のほうが、厳密な管理をしています。なぜなら、上場に向けて社内体制のチェックや審査を受けなければいけない立場にあるため、きちんと整えることに意識が向いているためです。
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