「タイムパフォーマンス(タイパ)」が脚光を浴びている。いわゆる「Z世代」を中心に「短い時間でどれだけの効果・満足度を得られるか」という視点が重視されるようになっているのだ。本稿では「タイムパフォーマンス」の意味や、ビジネスにおいて「タイムパフォーマンス」を意識することのメリットなどについて解説する。
Z世代が重視する「タイムパフォーマンス(タイパ)」の意味とは? メリットやビジネスにおける事例を解説

「タイムパフォーマンス(タイパ)」の意味とは

「タイムパフォーマンス」とは、費やした時間と、それによって得られた効果や満足度の対比、すなわち「時間対効果」であり、「タイパ」とも略される。

「タイムパフォーマンス」で焦点となるのは、時間と効果・満足度の関係である。短い時間で高い効果を得られたなら「タイムパフォーマンスが高い(良い)」、長い時間をかけたのに収穫が少なければ「タイムパフォーマンスが低い(悪い)」というわけだ。たとえば短期間・数回の商談で受注できれば「タイパのいいビジネス」ということになるだろう。

1990年代中盤から2010年代序盤に生まれた、いわゆる「Z世代」の間では「タイムパフォーマンスの高さ」が特に重要視され、限られた時間内にどれだけの効果・満足度を得られるかが強く意識されるようになっている、という指摘がある。『三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2022」』では「タイパ」が大賞に選出されたように、「タイパ」は最先端の言葉・概念として脚光を浴びるようになった。

もともとビジネスの現場では、不要な時間をかけず効率よく仕事をすることが重視されていた。いま、あらためて、そんな「タイムパフォーマンスの高い働き方」が注目を集めているのである。

●「コストパフォーマンス(コスパ)」との違い

「タイムパフォーマンス(タイパ)」と似た言葉に「コストパフォーマンス(コスパ)」がある。こちらは費やした金額(コスト)と、それによって得られた効果や満足度の関係、すなわち「費用対効果」を意味している。少ない投資で高い効果や満足度を得られた場合は「コストパフォーマンスが高い(良い)」ということになる。

「タイムパフォーマンス」が注目されるようになった背景

「タイムパフォーマンス(タイパ)」が近年になって特に注目されるようになった背景には、どのような事象があるのだろうか。代表的なものとして下記の3点があげられる。

●デジタル技術・IT技術の進化

パソコン、データベース、インターネットといったデジタル技術・IT技術が急速に発展したことで、世界中からありとあらゆる情報が発信・提供され、蓄積されるようになった。しかし1日が24時間であることは変わらず、個人が情報の収集・整理にかけられる時間が増えることはない。そのため、より短時間で必要かつ有益な情報にたどり着くことが求められるようになっている。

この課題を解決するのもデジタル技術・IT技術の進化だ。スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器が進化・普及し、高速なデジタル回線が世界中に張り巡らされたことで、特に意識せずともインターネットにアクセスすることが可能となった。これまでなら図書館へ行き、専門書を漁って集めなければならなかった知識や情報が、検索エンジンにキーワードを入力するだけで簡単に手に入る。まさに「タイムパフォーマンスの高さ」を享受できる時代となっているのである。

●「Z世代」を中心とするデジタルネイティブの行動様式

総務省の「情報通信白書」によれば、2010年時点で、インターネット利用率(個人)は78.2%、パソコンの世帯保有率は83.4%。スマートフォンの世帯保有率は9.7%に過ぎなかったが、そこから急速に普及し、2015年には72%、2020年には86.8%に達している。

そうした中で生まれ育った「Z世代」は、各種デジタルツールやインターネットの利用を当たり前のものとして捉え、上手に使いこなしていることから「デジタルネイティブ」とも呼ばれている。「デジタルネイティブ」は、大量の情報から短時間で必要かつ有益なものを探し出すことに慣れ親しんでいる。つまり「タイムパフォーマンスの高い行動」が当たり前となっているのだ。

●ビジネス環境の変化、働き方と価値観の多様化

リモートワークやオンライン会議が普及したことで、企業や労働者は、プライベートと労働時間の分別・管理、時間を無駄にしない効率的な働き方を意識せざるを得なくなった。また人手不足が続く中で、少ない労働力でいかにして生産性を向上させるかが企業運営における大きな課題となっている。仕事の効率アップが善、「残業して頑張る」は悪、という時代である。

さらに、転職によるキャリアアップの一般化、ワークライフバランスを重視した働き方など、労働者の価値観も変化。短時間で成果をあげて余剰時間を作り出し、キャリアアップのための学習やプライベートの充実に使いたいと考える人たちが増えているのだ。

「タイムパフォーマンス(タイパ)」のメリットと上げ方

◆「タイムパフォーマンス(タイパ)」のメリット

「タイムパフォーマンス」を高めることには大きなメリットがある。単に“流行”として片付けず、企業としても個人としても取り組むに値するものだといえる。

●業務効率化・生産性向上が進む
「タイムパフォーマンス」を高めるためには、短時間で最大限の成果を得ることを意識しなければならず、さまざまな業務を効率化する努力が求められることになる。これまでより短い時間で、これまでと同等以上の成果を得られるようになれば、生産性は自然と向上するだろう。業務効率化によって生まれた余剰時間を、より重要な仕事やコア業務のクオリティ向上に使うことも可能だ。

●多様な働き方や経験が可能となり、ワークライフバランスが向上する
業務効率化・生産性向上によって、時短勤務・残業の抑制が実現する。そうして生まれた時間を、自己研鑽、趣味、家族のために使えば、ワークライフバランスは向上するはずだ。また「タイムパフォーマンスが高く生産性の高い社員」として認められることで、昇給・昇進、働き方の選択といった場面で大きなメリットを享受できるだろう。

●若手層へのアピール
前述の通り、Z世代にとっては「タイムパフォーマンスの高い行動」が当たり前となっている。またZ世代の多くは、仕事を通じてどんな風に成長していけるかを重視している。どんな経験を積めるか、多様な経験を積むための時間を十分に確保できるかが、就職先の選定に大きく関わってくることになるのだ。

企業としては、Z世代に支持され、就職先として選んでもらうためにも「タイムパフォーマンス」重視の姿勢を打ち出すべきだろう。

◆「タイムパフォーマンス(タイパ)」の上げ方

「タイムパフォーマンス」を高めるためには、「費やす時間を短くして、これまでと同等以上の効果を得る」ことと、「これまでと同じ時間で得られる効果・満足度を高める」ことが必要だ。これらを実現するために意識しておくべき点を整理しよう。

●作業に優先順位をつける
「タイムパフォーマンス」を高めるためには業務効率化が必須である。1つ1つの業務・作業と、成果・満足度との関係を見極めて、「やるべき作業」、「やった方がいい作業」、「やらなくてもいい作業」、「やらない方がいい作業」などと分類、作業内容に優先順位をつけることから始めたい。

●完璧を求めない
「タイムパフォーマンス」の向上には、選択と集中が必要だ。すべて過不足ない完璧な仕上がりを求めれば、その分時間がかかってしまうのは必然である。効率よく成果を出すために、「タイムパフォーマンス」を重視して、期限を決め、限られた時間の中でやるべきことを取捨選択することが肝要といえる。

●「コストパフォーマンス」との両立にこだわらない
「タイムパフォーマンス」を高めるため、たとえばリモートワークやオンライン商談のための設備、e-ラーニングのシステムなどを導入しようとすると、それなりの投資が必要となる。そのコストアップに躊躇した結果、十分な成果を得られないようなら、「タイムパフォーマンス」は低いままとなってしまうだろう。

「タイムパフォーマンス(タイパ)」の事例

すでにいくつか実例を挙げたが、日常生活およびビジネスにおける「タイムパフォーマンス」に関する事例をいくつか整理してみよう。

●動画コンテンツの倍速視聴、切り抜き動画・ショート動画の視聴
「Z世代は動画コンテンツを倍速で視聴することを好む傾向がある」といわれる。長時間コンテンツの一部だけを抽出した「切り抜き動画」、前後を省略した見どころだけの「ショート動画」も高い人気を獲得している。動画を見ながら別の作業も進める「ながら見」も、「タイムパフォーマンス」を意識した行動様式といえる。

●冷凍食品や完全栄養食
食材の買い出しや調理にかかる時間を省くため、冷凍食品を利用する人は多い。また各種栄養素のバランスまで考えた「完全栄養食」と呼ばれる料理や弁当も作られている。これらが定期的に届く宅配サービスもあり、その利用は「タイムパフォーマンスの高い食事方法」といえるだろう。

では、ビジネスにおける「タイムパフォーマンス(タイパ)」の事例はどのようなものがあるか考えたい。

●ツールを活用したタスクマネジメント

業務・作業に優先順位をつけ、計画的に進めていく「タスクマネジメント」は、ビジネスの現場における「タイムパフォーマンス」向上の第一歩といえるだろう。その際、Microsoft Excelなどの一般的なツールが使われることが多かったが、近年では、案件別、部門別などで「やるべきこと(To Do)」が整理されている、タスク管理・プロジェクト管理のための専用ツールも開発されている。

ほかにも顧客情報・取引履歴などを一元管理できる顧客管理システムは「CRM(Customer Relationship Management)」ツールと呼ばれ、クライアントのサポートなどに利用されている。同様に「SFA(Sales Force Automation)」ツールと呼ばれる営業支援システムには、売上管理・スケジュール管理・見積書作成などの機能が盛り込まれ、案件獲得・商談設立までの時間短縮、成約率アップ、新規顧客開拓などに威力を発揮している。

これらのツールの利用は、短い時間で高い成果を出せる「タイムパフォーマンスの高いビジネス」を実現してくれるはずだ。

●働き方・採用活動のオンライン化

リモートワークやオンライン会議の体制・設備を整え、また上述の各種ツールによって業務に必要な情報が一元管理されるようになると、移動の時間、情報を探す手間、連絡の手間などを削減できる。

例えば、採用サイトに倍速視聴を前提とした動画コンテンツを掲載し、OBとオンライン対話できる機会を設ければ、就活生は会社訪問の時間を削減することが可能だ。


業務効率化・生産性向上やZ世代を中心とする人材獲得に向け、「タイムパフォーマンス」を高めるための取り組みは今後ますます重要となりそうだ。無駄な時間がかかれば、それだけ人件費をはじめとしたコストもかかるため「タイムパフォーマンス」の向上はコスト抑制にもつながるといえる。

ただし「タイムパフォーマンスを高める」ことに注力するあまり、急激な業務効率化や劇的な働き方改革を進めると、現場に何らかの悪影響が及ぶ危険性もある。短期的な成果だけでなく、長期的に見たメリットとデメリットも冷静に考えつつ、「タイムパフォーマンス」を考えていくことが大切だろう。

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