「内定者研修」の意味や目的とは?
「内定者研修」とは、内定が決まった新入社員を対象として入社前に実施する研修である。担当する業務内容に関するレクチャー、指導ではなく、企業の事業概要や社会人として身に付けておくべきマナーや基本的なスキルを習得したり、ビジネスパーソンとしての意識醸成を促したりする場として位置付けられている。なお、内定前の時期には雇用契約の効力は生じないため、あくまでも「内定者研修」への参加は任意であって、強制することはできない。
◆「内定者研修」の時期と頻度
一般的に「内定者研修」は学生の冬休みや春休みなどで実施されることが多い。ただ、近年は就職活動のスケジュールが前倒していることもあって、入社前の時期に「内定者研修」を単発で実施するのみではなく、時期を分けて複数回行うケースが多くなっている、時期に見合った目的を設定し、研修内容を検討する必要がある。場合によっては、10月1日の内定式よりも前に行うことも検討する価値がある。◆「内定者研修」の目的
「内定者研修」を行う大きな目的は、以下の通り3つある。・内定者の疑問や不安の解消
内定者は、入社を決めた後でも「この企業で良かったのか、もっと自分に向いている会社があったのではないのか」、「会社に馴染めるだろうか」、「仕事で成果を出していけるのか」など、さまざまな疑問や不安を抱えている。そのような心境の中、内定をもらった会社から入社まで一切アプローチがなく、疑問や不安を解消する場が設けられなければ、入社意欲が低下してしまいやすい。
対策として、入社前に内定者の疑問や悩みをクリアにし、内定者同士で交流を深めることが「内定者研修」の目的といえる。そのため、内定者の疑問に答え、会社についての理解を深められるプログラムを実施する必要がある。「内定者研修」は学生から社会人としての意識転換の機会にもなり、業務理解を深めることで仕事への意欲向上にもつながると考えられるため、適切に実施することで内定者は安心して入社できるようになるだろう。
・内定辞退の防止
近年は人材の流動化が進み、転職を経験する人が半数以上であるとも言われている。転職を視野に入れて就職活動している学生や、労働力不足の中、第2新卒を含め活発に採用活動を行っている企業も多い。そのために、内定辞退や入社後の早期離職に対しハードルが下がっているといえる。企業としては、採用に多大な労力とコストを要しているだけに、内定辞退や早期離職のリスクを避けなければならない。だからこそ、内定を出した後にも内定者を積極的にフォローする必要がある。その手段として「内定者研修」が有効なのである。
・内定者のマインドセットやスキルアップ
採用競争がますます激化しているだけに、優秀な人材を確保するのが困難になってきている。むしろ、採用した人材にいかに早い段階から活躍してもらえるよう育成していくかががポイントとなる。その意味では、「内定者研修」が果たす役割は大きい。
内定者のマインドを高めると共に、入社までに最低限必要となるマナーやスキルだけでも身に付けることができれば、本人も自信を持てるし、迎え入れる職場の負担も軽減される。
「内定者研修」を実施するメリット
次に、「内定者研修」を実施するメリットについて考察したい。●社会人としての意識や業務への意欲を高められる
「内定者研修」では、内定者に学生と社会人としての意識の違いを認識させ、働くことに対するマインドやモチベーションを醸成することができる。内定者に自立して働くことを意識してもらうことで、成長が早くなるといえる。ひいては、自身が目指す理想の社会人像を描きやすくなるし、入社する企業や組織への帰属意識も高められる。●基本スキルの教育により現場での受け入れがスムーズになる
「内定者研修」を行うメリットとして、社会人としての基本スキルの習得がある。内定者に社会人としてスムーズなスタートを切ってもらうために、入社前に社会人としてのマナーや文書作成力、基本的なPCスキルを指導するプログラムが考えられる。実践的な研修内容にすれば、内定者は得られるものが多い。現場としても、基礎力を持った社員であればあるほど入社後の受け入れがスムーズになる。●人間関係の構築およびチームワークの醸成につながる
仕事を進めていくためには、チームワークが不可欠となる。その重要性を内定者に理解してもらうためにも、「内定者研修」は有益な機会となる。自分がどんな人たちと一緒に働くのかがわかるとモチベーションも上がりやすい。先輩や同期との交流、コミュニケーションを通じて、仲間とのつながりを意識するとともに、チームワークを醸成するためのコツを得やすくなるだろう。●入社までの期間の自己学習を促進できる
「内定者研修」で事業や業務内容の理解を深められれば、内定者は入社前にどのような知識やスキルを身に付ければ良いのかイメージしやすい。冬休みや春休みなどの長期休暇を活用して自己学習してもらうことで、早期の活躍が期待できる。「内定者研修」の内容
実際に「内定者研修」を行う際の内容として、想定される要素について説明する。●会社や事業の理解
内定者は、就職活動期間中に既に企業研究を行っているだろう。ただ、それはインターネットや企業からの配布物を通じて知り得た情報がほとんどだ。よりリアルな情報に触れ、自分が入社するのはどのような会社なのか、自分たちが担当する仕事にどんな意義・価値があるのかを理解することで、期待感が高まるとともに、自分が活躍する姿をイメージしやすくなる。企業のビジョンや業務内容を伝えていける「内定者研修」を工夫したい。●同期入社や先輩社員との関係性構築
内定者同士はもちろん、先輩社員との関係性を築ける「内定者研修」も効果的だ。同期とのつながりができると安心感が持てる。疑問や悩みを抱いているのは自分だけではないと知るだけでも、心理的な負担が軽減される。また、先輩社員の話を聞いたり、個別に質問したりできる機会を設けるのも有益だ。「あの先輩のようになりたい」という、目指すべき人物像を持てると、内定者のモチベーションも高まる。●社会人としての心構えやビジネスマナー
入社早々に「今日から急に社会人としての意識を持つように」と促しても、すぐに切り替えることは難しいだろう。入社前の段階で、心構えを醸成するきっかけを与える必要がある。また、社会人になるには挨拶や身だしなみ、言葉遣いなどの基本的なビジネスマナーも身に付けなければいけない。それらを習得するためのビジネスマネー研修も用意したい。●基本スキルの習得
どんな仕事に就くにせよ、社会人であれば必ず求められる基本的なスキルがある。例えば、短く簡潔にビジネス文書を書きあげるスキル、限られた時間の中で自分の意見や考えをわかりやすく伝えるプレゼンテーションスキル、ビジネスに不可欠となるExcelやWord、PowerPointなどを使いこなせる基本的なPCスキルなどだ。それらを習得するための研修プログラムもぜひ取り入れたい。効果的な「内定者研修」を実施するポイント
効果的な「内定者研修」を行うために、抑えておきたいポイントが4点ほどある。●それぞれの内定者の特性やスキルを把握する
まずは、アンケートや課題提出などにより、内定者の特性やスキルを把握することだ。選考や面接を通じて知る情報だけでは十分に把握できていなかったり、内定者の特性が徐々に変わっていたりする。どのようなキャリアを志向しているのか、何に対して苦手意識を持っているのか、強みや弱みがどこにあるのかなど、内定者の現状での傾向やスキルを正確に把握することで、それらをフォローするためのより有益なテーマを設計することができ、配属先の決定にも役立つ。●現場で必要なスキルや行動指標を把握する
「内定者研修」の内容を設計する際には、現場の声を反映させるようにしたい。内定者を受け入れ、育成するのは現場の先輩であるからだ。現場でどのようなスキルや行動指標が求められるのかを確認し、研修内容とズレがないように気をつけたい。●具体的な育成イメージをもとに「内定者研修」を計画する
「内定者研修を通じて、どのような人材を育成したいのか」に基づき、研修のゴールが決まる。「内定者には、入社までにこういったマインドやスキルを身に付けてもらいたい」というイメージを明確に描き、そこから逆算して、どのタイミングでどのような研修を実施すると効果が高まるかを考えるとよい。●提出物や面談で効果を確認する
「内定者研修」に限らず、人事施策は必ずその効果を確認する必要がある。方法はさまざまだ。研修参加者に課題やレポートを課し提出してもらう、振り返りの面談を行う、フォローアップの研修を実施するなどが考えられる。ただ、注意しなければいけないのは、参加者に負荷をかけ過ぎないようにすることだ。また、次回以降の改善につなげていかないと意味がない。「内定者研修」は、内定者の疑問や不安を解消しモチベーションを高めることができる。また、内定辞退や入社後の早期退職を防止するためにも有効な施策である。加えて、現場での早期戦力化にもつながるなど、さまざまなメリットがある。内定者に会社への理解を深めてもらい、入社後のネガティブなギャップをなくすためにも有効な施策である。
効果的に実施するポイントとしては、内定者の特性と現場で必要なスキルの把握、ゴールの明確化、適切な効果検証などがある。自社の事業や内定者の傾向に「内定者研修」の内容がフィットしているか、確かめることが必要である。
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